進路決めは「息子と向かい合って話して」
── 夢に向かっている息子さんですが、進路についてはどう話し合ってきたんですか。
東村さん: 実は「東村さんの息子さんは、どうやってやりたいこと(夢)を見つけたんですか」と最近よく聞かれるんです。でも、息子も高校1年生ころまでは特にこれといった目標があったわけではないんです。ゲームばかりしていましたし、そのころは自分が行ける日本の大学に行こうと思っていたみたいです。

── そうなんですか!
東村さん:はい。ただ、私は大学で教えたり、美大を目指す子たちを指導したりした経験があったので、大学を決める前に「わが子とはこういう話をしよう」と思っていたことがあるんです。それは、「将来就きたい職業のジャンルや方向性について」です。たとえば本に関わることがいいなとか、手堅く公務員がいいな、といったなんとなくの将来像を高校2年生くらいまでに見つけておくと、それに役立つ進路に関してアドバイスができると思っていました。就職してから、「やっぱり違った」となる子たちを実際に見てきたので、その前に親にできる手助けがあれば、してあげようと思って。
── 「自分のやりたいことは自分で見つけてほしい」と願う親は多そうです。
東村さん:そう願うことも、「将来やりたいことは大学に入ってから探せばいい」という考え方ももちろんあると思っています。でも私は経験上、それでは遅いと感じていたんです。そもそも大学って、専門分野を自分で選んで勉強するところですよね。夢が見つからないまま卒業の時期になって、ひとまずどこかに就職する。でも、自分のしたいことではないからすぐ辞めちゃう。「やっぱり漫画家になりたいんです」と30歳を過ぎてからアシスタントに来る子、多いんですよ。
── とりあえず大学は出ておいた方がいいという風潮はいまだにありますよね。
東村さん:仕事を辞めてうちにアシスタント希望で来た子に「いつ漫画家になりたいと思ったの?」と聞くと、「実は小学生のころから漫画家になりたいと思っていました」という答えが返ってきました。それならどうして漫画家になりたいという気持ちに蓋をして就職してしまったのかなって。まあ私もそのクチだったんですけどね。もっと早くから漫画を描いてたらよかったという後悔はあります。
こういう経験もあって、大学を選ぶ前に自分の将来像をイメージすることは決して早すぎないと思うようになりました。あとは、すでに高校生の時点で農業に興味があって、大学で農学部に行く。実際に学んでみたら「いや、やっぱり向いてない」と気づく。そこで「これは違った」と思うことも大事だと思います。やってみたかったことを1回消化できていますよね。夢を消化するのは早くていいと思います。
やりたいことへの思いを抱きながら就職して、辞めて、あとから方向転換して。もちろん遠回りがいい作用を与えることもありますが、そうじゃない場合も多い。できることなら先にチャレンジした方がいいですよね。
── 東村さんは息子さんにどうアプローチしてきたんですか。
東村さん:私はそれまで息子の将来について何も言ってこなかったんですけど、高1の終わりごろ息子に「将来、何をしたいの?自分の心に聞いたらわかるはずだよ」と聞いたんです。「何を言ってもママは笑わないし、否定もしない。消去法でもいいから正直に言ってみて」と。そしたら息子は「映画とか作る人になりたい。無理かもしんないけど」って言ったんです。私はそこで「全然、無理じゃないよ!」と答えました。いきなり監督になるのは難しくても、アシスタントやスタッフとして業界に入って、バイトでもいいからそっちの世界で働いてみなよ、と。
子どもの思いを優先するのはもちろんですが、今の子はある程度の手助けも必要だと思います。現代はゲームやSNSなど、時間を埋めるものが溢れていて、自分について突き詰めて考える暇がなさすぎると思うんです。私たちの青春時代はネットも携帯もなかったから、河川敷に座って「私って何になればいいんだろう」って考えたり、みんなで語ったりしていた。つまり、自問自答をする時間が長かったんです。やることがなかったから(笑)。
今の子にはその隙間がなさすぎます。忙しくなりすぎているので、あえて改まって対話するという時間を作って「自分は何をしたいのか」、立ち止まって考えるタイミングを一緒に作ってあげるといいのではないかと思います。
── 高校1年生のタイミングで息子さんに聞いたのはなぜですか。
東村さん:2年生から文系理系にわかれますよね。その前に方向性を決めておく必要があると思ったんです。息子は数学が得意で、国語と英語が苦手でした。この場合「数学が得意なら理系」と選択すると思いますが、実はここがポイントで。将来、映画を仕事にしたいなら、まあ、ド文系ですよね。得意不得意ではなく、自分の将来(目標)にあわせた選択をすることが、間に合うタイミングで話をしようと思っていました。
「数学が得意なんだから理系で受験したらいい大学にいけるよ」と周りから言われても、そこで折れずに「いや、映画を作る人になりたいんで!」と言えるかどうかも自分の気持ちを確認する大事なポイント。特技を伸ばすことも大切ですが、やりたいことがあるなら、そこに照準を合わせていく方がいいと思います。
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息子さんの留学を機に韓国を訪れる機会が増えたという東村さん。韓国では美容クリニックにも通っているそうです。日常生活では保湿に気をつけるくらいと話す東村さんの美の秘訣は肌と髪のツヤを保つことだといいます。
取材・文/内橋明日香 写真提供/東村アキコ