仕事を手放したくないから「抗がん剤はストップ」
── その後の経過はいかがでしたか?
ミッチェルさん:抗がん剤はこの1回でやめました。私の場合、抗がん剤の副作用がひどすぎて、点滴で抗がん剤を入れたとたんにまず心臓が痛くなり、肺のあたりもキューッと締めつけられるような状態になってしまうんです。本来なら、6〜8回にわたって抗がん剤を打ち、リンパのがんを破壊していく予定でしたが、キツかったですね。抗がん剤を打ち続けて一時的に快方に向かっても、転移を繰り返すこともあるという話を耳にします。私はソプラノ歌手としてステージなどにも出演していて、体を使う仕事なので、そのとき舞台で自分の体がどれだけ耐えられるかもわかりません。
何より抗がん剤治療のために、仕事を休まなくてはならないのはキツイ、それよりも「現場にいたい」気持ちが強くありました。もともとソプラノ歌手になったのは、小学生のときにオペラと出合い、魅せられたのがきっかけでした。40歳でお笑い芸人を目指して吉本のNSC(吉本総合芸能学院)に入ったのも、「オペラを広めたい」「クラシックをもっと若い世代の方に知ってほしい」、そのためにも「オペラをおもしろく伝えたい」という思いがあったからでした。
抗がん剤治療を続けることで体力や時間を奪われ、それができなくなってしまったら意味がない、自分の人生観と違うなと思ったんです。現場に出て仕事を続けることを優先しようと考え、治療はあきらめようと決めました。先生は当初「抗がん剤は続けたほうがいい」と言っていて、しばらく平行線のままでした。でも何度も話し合うなかで、最終的には先生も私の気持ちをくんでくださいました。
