痛みと背中合わせの日々「選んだ道に後悔しない」
── 抗がん剤をやめて、どんな治療をされたのでしょう?
ミッチェルさん:新薬を試してみたけど、あまり効かず、副作用がひどかったので、これもやめています。新薬を試していたときは、食べては戻して…の繰り返しと、気力を失うような痛みがありました。
体調は不安定だったけど、沖縄の小学校で公演をすることが決まっていたので、なんとしてでも行きたい気持ちがありました。前日までご飯が食べられなくて、「飛行機に乗れるのだろうか」「倒れたらどうしよう」なんてドキドキしていたんですけど、いざ、沖縄に行ったら元気になっちゃって、公演後にはお肉をもりもり食べていたくらいです(笑)。精神力なのでしょうけど、人間の力ってすごいなって思います。
病院にはこのまま痛み止めの処置などでお世話にはなるけれど、西洋医学によるがん治療へのアプローチに関しては、もう何もやることがない状態です。ほかに、身体のためにできることと言ったら、免疫をひたすらあげることくらいです。だから、温熱療法や食事療法を始めました。本もたくさん読みあさり、がんに少しでもいいと感じたら、とにかくやるようにしています。たとえば、毎日何回も「ありがとう」と自分自身に言ったり、前向きな気持ちで過ごしたり、よく笑うようにしたりと、やれることはすべてやろう、という感じです。
── 現在の体調はいかがですか?
ミッチェルさん:痛みがかなりあります。背中の大動脈の近くに大きなリンパの腫れがあって、それが神経を圧迫するようです。ひどいときはちょっと足を引きずってしまうことがあって、いまは医療用麻薬を処方してもらっています。最初は麻薬と聞いて「これ飲んで大丈夫ですか?」とびっくりしたけど、「むしろ飲んで痛みをなくしたほうが、命としても長らえるので」と先生に言われています。強い薬ではあるけれど、いまはもう欠かせない状態です。

── 治療を打ち切り、選択に悔いはないですか?
ミッチェルさん:抗がん剤治療を続けていれば、治る可能性もあったかもしれません。だから、抗がん剤をやめないほうがよかったのかな、と思うことは正直あります。ただ抗がん剤をあきらめて、現場に早く戻れたおかげで去年は子どもたちにオペラを実際に体験してもらうアウトリーチなど、やりたい活動がたくさんできました。本当に濃い1年間でした。だからやはり悔いはありません。自分の人生で何を選択するか考えたとき、私は仕事をとったんです。
…
抗がん剤治療を打ち切り、子宮体がんを抱えながら仕事に向き合っているミッチェルさんは、同じ境遇の方に元気を与えられればと、SNSで自身の状態を発信するように。芸人という職業柄からか「お笑いみたいなおふざけではがんは治りませんよ」といった誹謗中傷もあったそうですが、生配信をしたときはみんなで互いを励まし合うなど、あたたかい場を築けているそうです。
PROFILE ミッチェルさん
みっちぇる。1978年7月1日生まれ、千葉県出身。吉本興業東京NSC25期。桐朋学園大学卒業。声楽講師。学校公演700校以上。小澤征爾音楽塾にて塾生としてオペラ出演。出演歴に『火曜は全力!華大さんと千鳥くん』『いろはに千鳥』『かまいったーTV』『マクドナルド公式Twitter』『TOYOTA』など。
取材・文/小野寺悦子 写真提供/吉本興業