「会社との認識の食い違い」が6割を占める

── 毎年のように、新卒入社の人がすぐに辞めてしまうことが話題にあがります。

 

川又さん:実際に入社してみて、「思っていたのと違う」「やっぱり合わない」といった理由で辞める新卒の方が増えてきたと思います。会社側も採用時には、人材を確保するために実際よりもよく言ってしまうことがあるようで、それをそのまま学生が鵜呑みにしてしまい、入社時には期待が高まってしまっています。ところが、実際には違っていたとか、面接のときに言われていたことと本当の労働環境が違っていたという理由で退社を希望する方が多いです。具体的には、土日が休みだと聞いていたのに実際は2週間に1回出勤が必要だった、残業が多かった、などという内容です。

 

長年売り手市場が続いているということがありまして、会社側は人材を求めているがためによく言ってしまう傾向があるかと思います。本当のことを告げてしまうと、応募してくる人数が減ってしまうかもしれませんが、その条件下でも本当に働きたいという方が集まってきますので、「思っていたのと違う」という理由での退職を防ぐことに繋がると思います。人材を確保するためには、ありのままの状況を伝える必要がありますし、採用される側も、言われたことすべてを鵜呑みにせず、過度な期待をしすぎないことが大切です。

 

── 悩みは人それぞれだということを伺いましたが、どうしたら会社と働く人との考え方のギャップを埋めることができるのでしょうか。

 

川又さん:ありふれた言葉ではあるのですが、やはりコミュニケーションが鍵になってくると思います。新卒の方が、入社後数日や数週間で退職を決断してしまう際に、企業の方からは「一度相談してくれたら」と言われることが多いです。まずは辞めるという決断をする前に、会社の誰かに話して、業務内容や勤務地の変更などができないか打診をしてみるなど、相談をしやすい環境づくりをすることが企業側に求められていると思います。

 

弊社で蓄積した相談データをもとに、依頼を受けて、企業や学生に向けて講演会を現在行っています。企業向けには、どうしたら辞めない会社を作れるのか、学生向けにはどういった会社を選ぶべきかというお話をさせていただいております。退職代行サービスを提供している立場ではありますが、私たちは「退職代行の必要ない世の中」を目標にしております。ただ、現状多くの方が仕事で悩んでおり、その悩みはつきません。そのため、今後も退職代行への依頼は増えていく事が予測されますが、「退職代行」という存在が企業にとっての抑止力となり、労働者の問題解決への一助になればと思っています。

 

── 離職に繋がるトラブルは、会社側と企業側と、どちらに原因がある場合が多いと感じますか。

 

川又さん:実際に相談を受けていると、「262の法則」が当てはまると感じることが多いです。本来は、職場や学校などの集団生活で、優秀な2割、平均的な6割、貢献度が低い残りの2割という意味で使われるものなのですが、その比率が退職相談と通じるものがあります。相談内容のうち2割は「これは完全に会社が悪い」というケース、そして「これは依頼者の方に原因がある」というケースも2割ございます。ですが、残りの6割は「会社と依頼者のコミュニケーション不足によるすれ違い」によるものです。

 

人によって物事の捉え方や考え方がまったく違うことが要因なのですが、こちらは常識だと思って言っていることも、相手が同じように受け止めているとは限りません。冗談で言ったことを本気にしてしまったというケースも多いです。みんなに同じように伝えても、人それぞれ受け止め方は変わってきますので、一人ひとりに合った適切な言葉や対応を行っていく必要があると思います。私共としては、あくまで中立な立場で相談に乗ることを意識しています。第三者の立場も大切です。直属の上司などには伝えにくいことも、斜めの関係の人には相談できる場合も多いです。企業内で、第三者の立場の方と面談や相談の場を設けることも必要だと思っております。

取材・文/内橋明日香 画像提供/(株)アルバトロス