話題のSEL教育に取り組むことがカギになる

── 夢中カレッジのメタバース教室では、具体的にはどんなことを教えているのでしょうか?

 

辻田さん:その子に合ったカリキュラムの進め方として、グループ活動や教科学習を行う「ぐんぐん学びコース」と、先生との1対1の対話から徐々にコミュニケーションをステップアップしていく「じっくりサポートコース」の2つがあります。共通して掲げているのは、SEL(Social and Emotional Leraning)を根底とする活動です。また、学習指導要領をベースにし、教科を楽しく学べるように開発したオリジナルコンテンツや、在籍学校と連携した出席認定サポート(不登校児動が学校外の学習や支援活動に参加することで、出席日数としてカウントされる制度)などもあります。

 

核になるSELは社会性と情動の学習を指し、感情を理解してコントロールする力や人とうまくつきあう力などを育てる教育のことです。2022年12月に改訂された生徒指導要領でも、この考え方や取り組みが取り上げられています。この教育モデルには、自己認識、自己管理、社会的認識、対人関係スキル、責任ある意思決定といった5つの要素が含まれています。

 

これまでは学校が学力といった数値化しやすい能力で評価してきましたが、人間力を評価するよう変化してきたことで求められている能力です。また、ストレス社会は子どもたちの世代にも影響を及ぼし、心の成長にもかかわります。SEL教育を通じて、自尊感情や他者認識を伸ばすことも期待されています。

 

他者が何を考えているかや関わり方がわからないといった不安、自分の心が苦しい状態を言語化できないといった「不安の正体」がわからないことがあります。SEL教育を通じて、自分や他者を知り、自己と他者の関係性に気づいたり、言語化したりすることを学べます。結果として、自分の振る舞い方がわかっていき、社会への不安が軽減されていくことにつながると考えられています。

 

たとえば、音や匂いに敏感な子の場合、外でストレスを感じても、それをどう伝えたらいいのか、言語化できずにストレスを抱え込んでしまいます。そうした状況に対して「自分がこういうことで困っているから、こんな配慮をしてほしい」と、周囲に伝えられるようになるのが、SELのひとつの効果です。

 

── 具体的には、SELの授業はどういった内容なのでしょうか?

 

辻田さん:たとえば、イソップ寓話の『アリとキリギリス』。夏に働かず歌ってばかりいたキリギリスが食糧に困った冬、アリに助けを求めたけれど、夏も働きづめだったアリは食料をあげず、キリギリスは亡くなってしまう。もし、アリが裁判にかけられたら罪に問われるか?といったテーマのなかで、登場人物の行動や選択を法律的・倫理的観点から考え、議論をしていきます。

 

ほかにも、カラーパレットといって、言葉で感情を表すのが難しいときに、色を使ってその気持ちを表現しようと試みる実践的な授業も行います。「今日の自分の感情を色で書いてみよう」と問いかけ、ワークシートに書きながら、自分の考えをまとめたり、発表してシェアしたり。意見を言わなくてもよくて、他者の考えを知ることだけでも、気づきになり得るものです。

 

これらの授業によって、自分がどんなときに、どんな気持ちになるかを理解し、受け入れていくことで、子どもの自己理解や自己への気づきを促します。現在は「ぐんぐん学びコース」8人、「じっくりサポートコース」4人の計1クラス12人で、クラス編成は小学校低学年、小学校高学年、中学生でわかれています。全体で合わせて60人ほどのお子さんがメタバース上に通っています。

 

── 部活動もあるとのことですが?

 

辻田さん:メタバース上のブースで参加できます。たとえば、マインクラフト部とか。好きを共有する子同士で、刺激が受けられます。また、自分がやりたいと思ったら新しい部活を作ってもいいんです。教育に関心がある大学生などの常勤スタッフもいて、楽しんで参加しています。

 

ある子どもの1週間のスケジュール例

大人も子どもも関係なく、メタバースの空間を一緒に作る感覚です。これまで「学校=先生からの一方的な教育」として感じて、無力感を感じていた子どもたちがディスカッションを通じて、自分が作成した動画作品の発表時間を設けるなど、夢中カレッジの運営方針を自分たちで決めることもできます。また、子どもが主体となってクリスマス会が企画されるなど、自分の居場所になっていきます。