低年齢化する不登校の現状を食い止めるには?

── 通っている子どもたちには、どういった変化が見られますか?教室を運営してきたなかでの手応えはあるのでしょうか。

 

辻田さん:どの子にもポジティブな変化を感じますが、例を挙げるなら、ASD(自閉スペクトラム症)を持つ小学4年生の子の親御さんから聞いた話があります。うちにきた当初は「学校」という言葉を聞くだけで吐いちゃうくらいでした。でも、夢中カレッジに1年間通って、友だちもできてうれしいと。親御さんによると「まったく外に出られなかった子が家族と旅行に行くくらい、心が外に向かうようになった」と、喜んでくださいました。最近は「学校にはどうやったら行けるの?」と聞いてくるそうです。学校に行くことは絶対的な目的ではないですし、仮に学校に通ってうまくいかなくても、このカレッジが彼女にとって戻って来られる居場所になるはずだから、安心できると思います。

 

── 手応えとは逆に、課題はありますか。

 

辻田さん:小学4〜6年生の子、中学生向けに夢中カレッジを開講していましたが、この春から小学1〜3年生向けにも開講しました。ただ、PCやタブレット操作の理解が難しいケースがあり、親御さんのサポートが必要になってきます。実際には不登校が低学年化しているので、ニーズはあるものの、どう対処すべきか模索する日々です。

 

また、低学年に対してはスタッフの数も手厚くする必要があります。そう考えると、見守る先生の確保も喫緊の課題です。SELを中心にした価値観を共有する先生たちは、子どもへの接し方などに一定の理解はありますが、オンライン上とはいえ、子どもたちのリアクションがあまりに無反応だったりすると、「本当にこれでいいのか」といったマインドになり、ストレスを感じるからです。

 

こちらも研修などで、どういうふうに質問を投げるとリアクションがあるか、どうやって子どもを観察していくかなどをフォローしつつ、反応がどうしても薄い子がいれば、ご家庭とも連携して、クラス運営に取り組めたらと考えています。

 

── いずれにしても、不登校による児童の精神的な不安や孤独感の深まりは深刻だと思います。

 

辻田さん:待ったなしの状況だと思っています。30万人以上の不登校児童がいて、義務教育にアクセスできずにいます。フリースクールや教育支援センターに行く子も2割程度と言われているので、残りの大多数は社会における居場所がありません。だからこそ、公教育にメタバース教室をどう連携するかが重要だと思っています。子どもの居場所を分断せず、オンラインをハブに、日中、子どもが行ける学童や放課後教室と連携して、場所を借りられたらという方向も見出したいです。

 

── そのためには何が必要ですか?

 

辻田さん:アカデミックな観点をつくっていくことだと思っていて、東京学芸大学との共同研究を目指しています。適切なメタバース環境のもと、SEL教育を通じて心の回復と成長に一定の効果があることを研究するための費用を捻出するため、クラウドファンディングを立ち上げました。これまでも自分たちで分析はしてきたのですが、共同研究に力を貸してくれた東京学芸大学とアカデミックな観点から、子どもたちの「内面と行動の変化」を検証のポイントに置き、四半期ごとに児童や親御さんからアンケート調査などから統計データを作っていきます。そうした学術的な研究を示すことで信頼性を得て、それを担保にさまざま自治体にも、メタバース教室の提案ができればと考えています。

 

取材・文/西村智宏 画像提供/夢中カレッジ