不登校30万人時代。学校に行けず、フリースクールや自宅学習になる子どもがいるなか「メタバース教室」で光を見出そうとする動きがあります。オンラインで何ができる?どんなメリットが?
不登校の原因は「人や集団が苦手」以外にもある
── いまや不登校が30万人に達したとも報じられています。辻田寛明さんは2020年からオンラインによる不登校児童の支援を行っていますが、メタバース教室(夢中カレッジ)を始めた理由はなんだったのでしょうか?
辻田さん:不登校児にとって大きな課題となるのは、子どもが学校になじめず戻れなくなることだけではなく、「社会から孤立する」ことだと思っています。フリースクールなど、地域によってはさまざまな不登校児童の受け皿になる場はあります。ただ、そういった場がない地域もたくさんあります。また、たとえ場があっても、金銭的な負担を感じている親御さんもいるはずです。
だからこそ、暮らす地域に関係なく、安価で運営できるインターネット上の教室(メタバース教室)を作って、不登校児童の孤立を防ぎたい。さらに、その先にある、人や社会への不安・恐怖感から子どもを救っていけたらと考え、夢中カレッジを立ち上げました。メタバース教室とは、パソコンやタブレット上に3次元の仮想教室(現実世界のような空間)をつくり、そこに自分の分身となるアバター(架空のキャラクター)を操作して、授業や部活動などに参加する仕組みです。アバター同士がPC画面などを通じて、コミュニケーションもとれます。
── そもそもどういったことが問題で、子どもは学校に行けなくなってしまうとお考えでしょうか?
辻田さん:このメタバースの教室を始める前から、不登校の子どもと先生がマンツーマンで、子どもの好きなことを伸ばすオンライン教室に取り組んでいました。そのとき実感したのは、子どもが学校を嫌になったり、苦手になったりする原因は、集団が苦手というのもあるかもしれませんが、一方的に教師から指導されることへ抵抗を感じる児童もいることがわかりました。教壇の少し高い位置から先生が子どもたちと向き合い、一方通行で「指導する、される」構図も影響しているかもしれません。
また、感覚過敏によって学校生活に悩まされていた子どもも多い印象です。狭いクラスの中で机を動かす音や周囲の子どもたちの声、筆記具が落ちる音など、ガチャガチャと忙しなくなる音が苦手な聴覚過敏や、給食の食べ物の匂いで気持ち悪くなってしまうような臭覚過敏など。さまざまな面で過敏になってストレスを受けてしまうわけです。

── そうした学校の構造や過敏な特性に対して、メタバース教室はそれらに配慮した環境づくりができるのでしょうか?
辻田さん:メタバース空間では、上下の関係性はなくなります。たとえば夢中カレッジの場合、オンライン画面上では、児童も先生も円卓のような同じ空間に座る設計にしていて、視覚的にも皆が同じだとわかります。授業も一方的なものでなく、子どもたちの知りたいことや疑問からつくっていくときもあります。また、オンラインなので、臭覚過敏の子どもは匂いを気にする必要はなく、聴覚過敏な子どもも音量を自分でコントロールできるメリットがあります。
── ただ、メタバース空間で子どもにとって快適な学びを実践できるとしても、フリースクールなど対面のほうが、有意義な気もするのですが…。
辻田さん:もちろん、対面に不安のない子ならそれでも問題ありません。ただ、リアルな場に対して不安な子にとっては、まずは、人とつながりを持つことが大切です。オンライン上とはいえ、面と向かって話すのが難しいなら、PC画面上に顔を出さないですむ「カメラオフ」の状態で授業に参加してもいい。先生やほかの生徒とコミュニケーションが図れる状態でなければ、音声をオフにして話さなくてもいいし、誰かの意見やチャット上のコメントに「リアクションボタンを押す」くらいでもいいわけです。
そうして、メタバース空間で人に対して慣れていき、フリースクールや学校に戻るステップにしてもいいし、このカレッジの居心地がよければ、安心できる「自分の居場所」として、活用し続けてもらってもいいと思っています。

不登校から再び社会活動に取り組むに至るまでには、5つのステップがあります。初期は行き渋りが始まる時期。その後、本格的に不登校に入るのが2つ目の段階。次に、元気を取り戻しつつも外に出る不安が残る段階。そして、保健室登校やフリースクールなど、外部の人との関わりをもてる段階。最後に、学校や他の居場所でみずからが活動できる段階。このうち、この2〜3段階目へのアプローチがたりていないのが現状で、メタバースがその不安を解消する役割を担っていると思っています。