40数年生きたタイミングで子どもたちと出会った意味
── 映画をきっかけに、子どもたちや齊藤さんの世界がぐんと広がっていくように感じられました。逆に子どもたちからもらったものもあるのでしょうか。
齊藤さん:たくさんあります。なかでも、約束をすごく大事にするようになりました。もし、僕たち大人が子どもたちからの言葉に対してあいまいな態度を取ったり、答えをごまかしたりすると、子どもたちは僕たちの心の状態までを敏感に感じてしまうように思うんです。彼らにとって僕たちとの出会いが意味のないものになってしまうかもしれない。それは嫌だなと。そんな大事なことをたくさん教えてもらっていると強く思います。

── 本当に。子どもは、大人の態度や表情からいろいろ敏感に感じ取るように思います。
齊藤さん:僕はたまたま彼ら彼女らの親くらいの年齢で、表に出る仕事をしている人間なだけです。決して、年上だから、先輩だから、彼ら彼女らに何かを与えることができるとは思っていなくて。逆に、むしろ大切なことをたくさん教えてもらっている気がします。ある意味、子どもたちや職員さんたちから、とても研ぎ澄まされたかたちで、人の心の根っこの部分に向き合うということを教えてもらっている感覚です。
── とはいえ、相手の心と向き合うというのは少し難しい部分もありますよね。
齊藤さん:そうですね。ただ、難しいというよりも、僕自身、いつも自省を含めて「この出会いには意味があるんだ」って実感していくことが多くて。40数年生きてきた自分の時間は変えられないので、自分がこのタイミングで施設の子どもや大人たちと出会ったことの意味を、時間をかけて享受してもらっているような感覚でいます。なんとなくたし算やかけ算をしながら、彼ら彼女らと出会った意味が自分の中で広がっていくような感じです。
── 映画館では、観客一人ひとりにチラシを手渡しされている姿がとても印象的です。
齊藤さん:いつも急に事務所のマネージャーに連絡をして映画館に行っているんです。きっとマネージャーたちは、「また齊藤が何か言い出した」みたいに思っているんだろうなって、申し訳ない気持ちでもあるんですけど(笑)。
ただ、僕がチラシを配っていても、大半の方が気づかないんです。そもそも僕が映画作りに関わっていることを知らない方もたくさんいて。映画の内容そのものにアンテナを向けてくれている方たちが来てくれているのを、実際に現場で感じられてうれしいですね。