関心のアンテナが向くことが大事
──『大きな家』は、昨年の12月に公開後、各地でロングラン上映されています。
齊藤さん:今後、DVD販売や配信などは一切しない予定なので、ある意味「期間に縛られない映画」なんです。未来永劫というか、子どもたちとこれからもずっとつき合っていきたいと願う僕たちの関係性の始まりだとも思っています。
さまざまな事情で親と暮らせない子どもたちを一時的に預かる「里親制度」があることはご存じだと思います。そのなかで、児童養護施設で暮らす子どもたちを週末や夏休みなどに一時的に預かる「週末里親」という制度もあります。児童養護施設を取り巻く課題が深刻化しているなか、本当に子どもたちの未来を真剣に考える取り組みがされているのかが問われているような、いまはそんな大事なタイミングだと思います。児童養護施設の子どもたちにとって、大きくて広い屋根や頑丈な壁が、僕たち多くの大人であってほしいなと願っています。
── 児童養護施設で暮らす子どもたちについて、読者に知ってほしいと思うことはありますか?
齊藤さん:みなさんの自宅があるエリアやご実家のエリアにも児童養護施設は必ずあります。各施設のホームページを見ると、お祭りやバザーなど地域問わず参加できる催しがあると思います。もし施設のホームページで何か興味のある催し物を見つけたら、行ってもらえたらうれしいですね。
僕自身、これまで自分の人生のなかで、施設との関わりをもつと思いもしませんでした。施設があるということは認識しながらも、自分が能動的に関わることを想像すらしていなかった。でも、全国に児童養護施設があることを知っていくなかで、どこか施設のまわりには遠慮の壁みたいなものがあるのかなと感じるようになりました。もちろん、子どもたちのプライバシーを守る配慮はとても重要で、気を遣うべきだと思います。ただ、気を遣いすぎて遠慮の壁のようなものができることで、お互いがつながりにくい状態を生んでいたとしたらもったいないと思うんです。
まずは気軽に子どもたちに会いに行ってもらえたらなと思います。一人ひとりの関心のアンテナが自然と児童養護施設に向かうだけでも、自分たちや子どもたちのまわりに温かい風が吹くと思います。
PROFILE 齊藤 工さん
さいとう・たくみ。1981年、東京都生まれ。多数の映画・ドラマ・舞台等に出演。齊藤工名義で映画制作活動も手掛けており、初長編監督作『blank13』(18)は国内外の映画祭で8冠を獲得。HBOasia『フードロア Life in a box』(19)ではAsian Academy Creative Awardsにて最優秀監督賞を受賞。現在はドキュメンタリー映画『大きな家』(24)やハリウッド映画『When I was a human』(公開日未定)ではプロデューサーを務めている。また、全国の被災地等での移動映画館「Cinéma Bird」主宰、「Mini Theater Park」、撮影現場での託児所プロジェクト、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。俳優としての近年の主な出演作に、ドラマ作品では「海に眠るダイヤモンド」(24)、「極悪女王」(24/netflix)など。映画作品では『シン・ウルトラマン』(22)、『零落』(23)、『碁盤斬り』(24)、『少年と犬』(25)、『新幹線大爆破』(25/Netflix)などがある。
取材・文/高梨真紀 写真提供/CHOCOLATE Inc.