理・美容師の国家資格試験の教科書を変えたくて

── 今後の目標を教えてください。

 

赤松さん:最終目標は、「スマイルカット」を辞めて、NPOそらいろプロジェクト京都を解散することです。カットが苦手な子どもたちが全国の理・美容室で髪を切ることが当たり前になったら、喜んで解散しようねってスタッフと話しています。ただ、そのためにはまず、「スマイルカットができる」と手を挙げてくれる理・美容師さんが全国に増えてほしい。「スマイルカット」の実施店は全国に90店舗強ありますが、理・美容室あわせて全部で37万店舗あるといわれているなか、まったく追いついていません。

 

それと、「スマイルカット」を広めるために今、力を入れているのは、理・美容師の国家試験用の教科書に、「障害者に対する合理的配慮」を理容美容も行っていくべきという一文を記載してもらうこと。8年前から国や行政に働きかけています。

 

── 理・美容師の卵たちが、理・美容師の資格取得に必要な知識として、「障害者に対する合理的配慮」を学ぶ必要があると。

 

赤松さん:はい。「障害者に対する合理的配慮」とは、障害のある人に対して、その人に合った寄り添い方をする接客が必須だという意味ですが、これを理・美容師の誰もが身につけるべき必須知識にできないかと考えています。教科書に取り入れるまでのハードルはすごく高いのですが、昨年から法律が変わって、事業者による合理的配慮が「努力義務」から「義務」になったんですよ。次は、理・美容師へ理解を広げたい。教科書にひと言つけ加えるだけでも本当に難しいらしいのですが、前進は見られるので頑張ります。

 

── 発達障害など特性があって理・美容室に行けないお子さんや親御さんにどんなことを伝えたいですか?

 

赤松さん:僕個人の気持ちですが、僕が今まで関わってきた理・美容師って人が好きな人ばかりなんです。だから、本当は断りたくはないはず。髪やヘアカットに関する困りごとがあったら、ぜひお母さんたちが通っている理・美容師に一度相談してほしいです。

 

理・美容師は、髪の毛を切っている間、大切なお子さんを預かっているという気持ちで真剣に向き合っています。たくさん相談したうえで、理・美容師がお子さんのことを理解できたら、きっといい仕事をしてくれるんじゃないかなと思います。

 

PROFILE 赤松隆滋さん

あかまつ・りゅうじ。京都の美容室「Peace of Hair」代表。2010年、発達障害等のカットが苦手な子どもたちのための「スマイルカット」をスタート。障がいのある子どもを対象に活動を全国に広げている。2014年、NPO法人そらいろプロジェクト京都を設立。2025年2月には活動内容を紹介した書籍『スマイルカットでみんな笑顔に!発達障がいの子どもによりそう美容師さん』が出版。自身の著書(絵本)に『ピースマンのチョキチョキなんてこわくない!』『ピースマンのまほうのハサミ』がある。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/NPO法人そらいろプロジェクト京都