「すごいな!」父親に褒められた子の行動が変わった
── Cくんからの手紙には、たくさんの想いが詰まっていたのですね。
赤松さん:うちの美容室では、「スマイルカット」の支援がなくてもカットができるようになった子には卒業証書を渡しているんです。「スマイルカット卒業おめでとう」って。僕のなかでは「今まで頑張ったね」ってお母さんにも渡しているつもりです。

卒業証書を持って帰った子のなかに、お父さんに「お前すごいな!」ってすごく褒められた子がいて。その子は、お父さんから褒められたことで、「苦手なことを頑張ったら褒められる」と理解したようで、なんと今まで行けなかった耳鼻科にも「行く」って自分から言ったらしいんです。その後、「耳鼻科を受診できて本人が大興奮しています」というお母さんからのメールを読んで、そのときの光景が目に浮かぶようで嬉しくて。
散髪をきっかけにこの子の人生でできることが増えて、この先の人生が少しキラキラするものに変わったのかなって思いました。ご家族も喜んでくれて、美容師をしていて本当によかったなあって。「スマイルカット」をしていなければこんな素晴らしい経験はできなかったと思います。
── お子さんのなかで、「スマイルカット」をきっかけに世界が広がったのですね。
赤松さん:一人ひとり髪の毛を切るまでにはたくさんのエピソードがあって、お店に入るまでがゴールの一つになっている子どももいるし、シャンプーやドライヤーが苦手な子もいます。少しずつでいいから自分のペースでクリアしていくことの大切さを学びました。
たとえば、初めて「スマイルカット」をしたAくんは、初めてのシャンプーで「気持ちいい」って言ってくれました。そのとき、「ああ、美容室で髪の毛を切ってシャンプーして、気持ちいいって喜べる当たり前の権利を、『障害があるから』という理由でこの子から知らず知らずのうちに奪ってきたのは、僕たち美容師の業界だったのかもしれない」、そう思うと悔しかった。

なぜなら、僕たち美容師が「散髪中に動いて危ないから」と子どもたちの髪を切ることを断ったという事実があるから。こういうお子さんがたくさんいるんじゃないかと痛感し、「スマイルカット」を全国に広げていこうと決めたんです。そうして、2014年に「NPO法人そらいろプロジェクト京都」を立ち上げました。