大きな音が苦手、じっと座っていることが難しい…そんな特性のある子どもたちの髪を切る「スマイルカット」を15年続ける赤松隆滋さん。「NPO法人そらいろプロジェクト京都」を立ち上げ、発達障害の子どもたちが散髪やシャンプーを当たり前に受けられる社会のための挑戦もしています。(全2回中の2回)
イタリア人になったつもりでニッコリ「僕は怖くないよ」
── 赤松さんのもとには、発達特性などで美容室に行けない子どもたちがたくさん訪れるそうですね。子どもたちの髪を切るとき、大切にしていることはありますか?
赤松さん:最も大事にしているのは、「僕は怖くない人」と子どもたちにわかってもらうことです。「ラポール形成」という心理学の専門用語があるのですが、僕は信頼関係を築く方法として「ウェルカムメッセージ」を取り入れています。

初めて来店してくれたお子さんに対して、目線がその子と同じになるように低姿勢になり、ニコッと笑っています。気持ちはイタリア人になったつもりで、「こんにちは!僕、赤松さんだよ」って満面の笑みで手を振るんです。少しずつ距離を縮めていって、ハイタッチ!こんなふうに、子どもたちに僕のことを「怖い人じゃないかも」と思ってもらえることをいちばん大事にしていますね。
お地蔵さんの絵に込められた発達障害の子の想い
── 子どもたちの安心感を大事にされているのですね。印象的な思い出はありますか?
赤松さん:僕の美容室には、ありがたいことに遠方からもたくさんの親子が来店してくださって、よく手紙をもらうんです。今、デスクに貼っているのは、Cくんという男の子からの手紙なんですけど、お地蔵さまと一緒に「いつも助けてくれてありがとう」って書いてあって。お母さんによると、Cくんは、美容室で散髪ができなかったせいで自信なくしてしまったそうで。お母さんもお店の人からひどいことを言われてしまい、2人で泣きながら帰ったこともあると聞きました。

── それは悲しいですね…。
赤松さん:神戸から京都にある僕の美容室に通い始めたのは年長のころ。Cくんは過敏性で音が苦手なのですが、家では頑張ってドライヤーで髪を乾かせるようになったというので、僕が「すごい頑張り屋さんじゃないですか」とほめたんです。そしたら電話口でお母さんがCくんに「赤松さんがほめてくれたよ」って伝えてくれたことがきっかけで「赤松さんに切ってもらいたい」となって。実際、思っていた以上にスムーズに散髪ができたので、その後もずっと通ってくれたんです。そんなCくんは「助けてくれてありがとう」とお地蔵さんの絵を描いた手紙を僕に渡してくれます。

今は中学生なんですけど、普段からお地蔵さんや仏像の絵を描くのがすごく好きで。あるとき、「どうしていつも地蔵菩薩なの?」って聞いたら、「赤松さんは子どもを守ってくれるから地蔵菩薩さんなんです」って答えてくれて。
僕はこの言葉を聞いて、ハッと考えさせられました。Cくんは僕らにとって当たり前なことが当たり前に経験できていないんじゃないか。そのぶんたくさん苦労しているんじゃないか。そんな子どもたちにとって勇気や自信につながる向き合い方が、僕たちにはどれだけできているだろうか…そんなことを思い、何度も自分と向き合いました。
