本を書くうちに「守るべき人」から「誇りに思える人」へ
── 「彼に対する気持ちの変化」とは、どのようなものだったのでしょうか?
根津さん:それまで、病気になった彼の世話、子育てや受験、私自身も家計を支えるために必死に働き、満身創痍の状態で逃げだしたくなることがありました。でも、彼の生きてきた道のりを追体験することで、彼の偉大さをあらためて知り、尊敬の念が沸きあがってきたんです。これほど芝居を愛し、芝居に愛されていた人が志半ばで病気になり、どんなに無念だっただろう…。彼を大切にしようという気持ちが強くなり、へこたれそうになっていた私自身にエネルギーを与えてくれました。
それまで私にとって夫は「守るべき存在」という気持ちが強かったんです。結婚生活のほとんどが彼の病との闘いだったからです。でも、取材を通して彼をより深く知るうちに、いつしか「誇りに思える人」に変わっていきました。彼と結婚してよかった、一緒にいられる時間を大切にしたい。そう思えるようになりました。

── 著書の中にある「闘病中の夫が初めてプレゼントをくれた」というエピソードも印象的でした。
根津さん:彼が突然、ブルーのスワロフスキーの素敵なネックレスをプレゼントしてくれたんです。彼と私は誕生日が同じ日なので、いつも2人でディナーに行っておしまい。プレゼントなんてもらったことがなかったので、驚きました。
ものすごくうれしかったのですが、その反面、家計を預かる妻としては「こんな高いものを買っちゃって。ムダなお金を使わないで…」と思う気持ちも(笑)。もちろん口には出しませんでしたけれど。きっと彼からすれば、感謝の気持ちをどう表していいかわからなかったのだと思います。プレゼントが苦手で照れ屋の彼が、闘病中にインターネットで一生懸命選んでくれていたところを想像すると、胸が熱くなります。私にとって大切なかけがえのない宝物です。