「カチカチの笑顔でほほ笑む娘に感動して」

── きょうだい児であるサラちゃんに、思うことや願うことがあれば聞かせてください。

 

島村さん:家族で外出しているときに、たまに周囲のお子さんが夏斗に対してあまりポジティブではなさそうな視線を向けていることがあったり、夏斗を見たお子さんに対して「見ちゃダメ」と言う親御さんもいたりするんです。ぼくは、SNSで発信したりいろいろな人に伝えたりして事前に知ってもらうことができますが、やはり障がいのある子を初めて見るお子さんは、不思議そうな目や冷たい目で見ることもあると思います。なので、この先お友だちと兄弟の話になり、お兄ちゃんについて表現していくなかで、嫌な思いすることもきっとあるんだろうなというところが心配です。

 

一方で、願いが届いているなと思う出来事もありました。ぼくたちは障がいのある子のことを夏斗も含めて「エンジェルちゃん」と呼んでいて、妻はいつも「エンジェルちゃんを見かけたら、ニコっとしてあげればいいんだよ」とサラに伝えてくれているんです。あるときふたりが出かけていると、大きな声を出したりタッチしてきたりする感じのエンジェルちゃんを見たらしくて。妻が娘の様子を伺っていると、サラがカッチカチの笑顔でそのエンジェルちゃんに対してニコっとしたそうなんです(笑)。その話を妻から聞いたとき、教育方針と言えるほど立派なものはないけど、「素敵な人になってほしいね」とか「素敵な行動や言い方ができる人になってほしいね」と夫婦で共有しているところが、少しずつ娘に伝わっているのかもしれないなと感動しました。

 

── ご夫婦の声かけや夏斗くんとの生活の中で、あたたかい気持ちが育っているのですね。

 

島村さん:そうだとうれしいです。ぼくが普段子どもたちを支援学校と保育園に送るときは、支援学校のリュックとそのあとに通うデイサービスのリュック、そして娘自身のリュックの計3つの荷物があるんです。バタバタする夏斗を抱っこしてぼくがバスに乗せるときはサラが荷物をすべて持ってくれることもあり、本当に助かります。しかも、最近は「将来、お医者さんになりたい」と言い出して。「なんで?」と尋ねると「えー、だってナツにたくさん会えるから!」なんて答えてくれたので、素敵すぎて泣いちゃいそうになることもありました。

 

ただ、今まではパパかママとお風呂に入ることが多かった娘が、最近はひとりで入るようになってきたんです。「一緒に入ろうよ」と声をかけても「きょうはひとりで入る」と言う機会が増えたので、バスルームを少し見に行ってみたら、サラがびっくりするぐらい浴槽でくつろいでいたんですよ(笑)。大人のようにリラックスしてぼーっと浮いている6歳児を見て「いつもありがとう。ごめんな」という気持ちになりましたね。

 

お兄ちゃんの登校時に荷物を持ってあげる妹・サラちゃん

── 最後に、今後の目標を教えてください。

 

島村さん:ぼくは、サッカー界でまったくエリートではなくて。無名なところからコツコツがんばって、ギリギリで湘南ベルマーレに拾ってもらったような選手だったんです。プロになってからも、試合に出られないときにシュート練習をしたり自分の課題に向き合ったり練習を盛り上げたりしながら、「チャンスをもらえたときはいつでもやれまっせ!」という前向きな気持ちで過ごしてきました。準備をしてチャンスを待って結果を出すという選手時代の経験は、現在の営業職にも通じているので、毎日がとても楽しいです。長期療養児自立支援プロジェクトについても、スクールコーチの仕事も、夏斗の存在のおかげで、より深く関わったり学んだりできていると思います。

 

支援学校の先生方を見ていると「この仕事をやりたかったからこそ、こんなに愛情深く子どもに接してくれているんだ」ということがひしひしと伝わってくるんです。ぼく自身も、これまでに得た経験すべてをもっともっと活かして日々に没頭し続けたいですね。

 

PROFILE 島村毅さん

1985年8月10日生まれ。早稲田大学卒業後、湘南ベルマーレに加入。ファン、サポーターから「湘南乃虎」の愛称で親しまれ、11年間のプロ生活を送った。現在は、湘南ベルマーレのフロントスタッフとして営業職とスクールコーチを担当。夏斗くんの育児経験を生かし、長期療養児自立支援事業のプロジェクトリーダーも務めている。

 

取材・文/長田莉沙 写真提供/島村毅、湘南ベルマーレ