2人育児は「思い出せないくらい大変だった」
──夏斗くんの妹さん(サラちゃん)が産まれ、4人家族に。新生活についても聞かせてください。
島村さん:夏斗が産まれたときは初めての子育てだったし、ぼくたち夫婦は同年代の中でも出産が早いほうだったので、発達がゆっくりであることは健診でしかわからなかったんです。でもサラが産まれてからは「あ、健常な子ってこんな感じなんだ。こんなに違うんだ」と思うくらい、しっかりとおっぱいを飲むしパクパク食べるしすぐに座れるようになるし話せるようになるし。もちろん手がかからないわけではなかったのですが、夏斗のときに抱えていたような悩みを持つことはなく、ぐんぐん成長してくれました。ただ、サラがいつ立てるようになったかとかいつしゃべれるようになったかとか、具体的なことがなかなか思い出せなくて。妻とも「大変すぎて思い出せないよね」と振り返るくらい、新生活は大変でした。
── どのようなところが特に大変でしたか?
島村さん:夏斗は妹のことが大好きすぎてちょっかいを出すのですが、サラにとって嫌なタイミングで邪魔をするんです。たとえば、テレビを見ているときや遊んでいるときに妹の上に乗っかって髪を引っ張ったり、おままごとをしているときにぐちゃぐちゃに壊したり。当然、親としては「ナツ、やめて!」と言うのですが、仕方がない部分もあるじゃないですか。話してわかるのであれば最初から苦労しないので…。でも、障がいがあるからといって全部が全部「お兄ちゃんはアンジェルマン症候群だから仕方ないよね」と言うのは絶対に違うので、サラにはいろいろな形で話をしています。そんなふうに、我慢させる部分と甘やかせる部分のバランスの取り方や、ふたりへの愛情の注ぎ方に気をつけるというところが現在進行形で大変です。
ちなみに、サラも我慢できないときは夏斗のお尻をパーンと叩いたりキックをしてみたりと反撃に出ていて(笑)。でも、自分がいつもちょっかいを出しているくせに、いざ妹にやり返されると、夏斗は泣きながら妻や僕のところに来るんですよ。サラが「いつもきっかけはお兄ちゃんなのに、なんで私がやり返したら泣いてママやパパに甘えられるの?」と疑問を持つかもしれないので、きちんと言葉で説明しながら、夏斗のなぐさめ方も工夫しながら、夫婦でバランスを取っています。

──どんなふうにバランスを取っていらっしゃいますか?
島村さん:妻は「サラにはサラの人生があるから、すべての生活を夏斗に合わせるのは違うと思う」と言っていて、ふたりにバランスよく指導してくれているんです。そのぶん、ぼくは「パパはサラちゃんの味方だよ」というスタンスで。夏斗がデイサービスに行っている間にお出かけをしたり、欲しいものを買ったり、食べたいものを食べたり、ぼくが夏斗と過ごすときはママとふたりで出かけてもらったりと甘やかせるようにしています。夏斗に対しては、パパとママが一緒になって叱っても仕方がないかなと思うので、家の中では何を壊そうが何をしようが、ぼくは怒らないように、許容するように心がけています。
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難病・アンジェルマン症候群は睡眠障がいを伴います。睡眠導入剤などを飲んでも夜間や早朝に覚醒してしまうため、朝4時半ごろから正解のないやり取りがずっと続くことも。ご夫婦で分担して向き合うものの、寝不足ゆえにぶつかってしまう朝もあったそうです。
PROFILE 島村毅さん
1985年8月10日生まれ。早稲田大学卒業後、湘南ベルマーレに加入。ファン、サポーターから「湘南乃虎」の愛称で親しまれ、11年間のプロ生活を送った。現在は、湘南ベルマーレのフロントスタッフとして営業職とスクールコーチを担当。夏斗くんの育児経験を生かし、長期療養児自立支援事業のプロジェクトリーダーも務めている。
取材・文/長田莉沙 写真提供/島村毅、湘南ベルマーレ