陸上を通して自分を信じられるようになった
── 陸上競技を通して養われた力、幼いころから走り続けてきたからこそ克服できたと感じることはありますか。
相澤さん:子どものころは試合で走ったり、練習をしていても「強くならないな」とか「絶対にうまくいかない」というような気持ちが強かったです。とにかく自信がなかったし、自分という人間を認めてあげられなかった。そんな僕が陸上を通して自分を信じられるようになったことは大きな意味があったと思います。
社会人になった後も、怪我をしたときは競技を続けられるか不安になりますし、怪我をする前の競技レベルに戻せるかと心配にもなる。悩みは尽きないです。でも、そんな局面でも自分を信じられるようになったからこそ、諦めることなく地道にトレーニングをして試合に臨むことができているような気がしますね。
── スポーツに限らず「自信を持つことが大事だ」とはよく言われますが、それを相澤さんも実感されているわけですね。
相澤さん:自信がないときはやっぱり全然、結果が出ないんですよ。僕の場合は、高校時代がまさにそんな3年間でした。自分のことをまったく信じられず、周りの選手に勝てると1ミリも思えなかった。
トレーニングばかりに意識がフォーカスされがちですが、アスリートってそれと同じくらいメンタルが重要だと僕は考えていて。でも、現状ではまだまだメンタルに寄り添うことができていない。だからこそ将来指導者にったときにはそういうケアもできるような存在になりたいと思っているんです。
── 20年以上陸上を続けてきたなかで壁や葛藤にも直面したと思います。そういったものを乗り越えた今だからこそ、挫折したときは何が大切だと感じていますか。
相澤さん:僕は怪我が多いので、怪我という「壁」と向き合う時間が多いのですが、ぶち当たるたびに、怪我をする前の状態に戻すのではなく、さらにパワーアップしようという気持ちで向き合っています。壁を目の当たりにしたときにそれをチャンスだと思えるかどうか。そう思えるマインドがすごく大切ですよね。そうはいっても僕もネガティブになることもあります。そんなときはすぐに忘れるようにする。心の中で6秒ぐらい数えて、「はい、ポジティブになろう」とつぶやいて引きずらないようにしています。

── 現在27歳ですがご自身の選手としての伸びしろや可能性は感じていますか。
相澤さん:社会人になって6年目に入るんですが、いろいろやってきたつもりだったけれど、できることはまだまだあるな、と。2020年に旭化成に入社しましたが、怪我などの影響もあって自分が納得するような走りは2回くらいしかできていないし、チームに貢献できていない。そういった意味ではまだまだ成長できるし、成長していかなければと思っています。
── 強いマインドで走り続けられる相澤さんの心の支えになっているものはなんでしょうか。
相澤さん:昨年3月に結婚したんですが、家族はもちろん、これまで所属したチームの監督やコーチ、チームメイト、いろいろな人の支えがあって今の僕があると思っています。そういう方々の存在をしっかりと心に留めながら、自分のために、そして応援してくれる人や支えてくれる人たちのために、これからも前を向いて走り続けたいですね。
PROFILE 相澤 晃さん
あいざわ・あきら。1997年7月18日福島県生まれ。小学生の頃に陸上を始める。学法石川高時代は3年間連続で全国高校駅伝に出場。を経て、東洋大学へ進学。箱根駅伝では3年時に4区で、4年時に2区で区間新記録(当時)をマークした。卒業後は旭化成に進み、21年の東京オリンピック代表として10000mに出場した。
取材・文/石井宏美 写真提供/相澤晃