フリーアナウンサーの中井美穂さんは、NPO法人の理事をつとめながらがんに関する啓発活動を行い、大切な存在の喪失を悲嘆する方に寄り添う「グリーフケア」を学んでいます。幼少期から祖父母の影響で死を受け入れるタイプの人間だと思っていた中井さんですが、学びを通して変化した思いがありました。(全3回中の3回)
自分の経験が誰かの役に立てたら
── 2018年からNPO法人キャンサーネットジャパンの理事となり活動を行っています。きっかけはなんでしたか。
中井さん:多発性子宮筋腫の手術をしたあと腹膜炎を患い、1年間人工肛門で生活をしていたのですが、その閉鎖手術後にフォローアップのために訪れていた病院でキャンサーネットジャパンの理事をされている先生と出会いました。セミナーなどの際に司会者がいると助かるので、興味があれば一緒に啓発活動をしてみませんかとお声がけいただいたのがきっかけです。

私はがんではありませんでしたが、病気を経験したことで自分の体について考えるようになりましたし、少しでも興味を持ってもらえる人が増えたらいいなという思いと、司会者として役に立てることがあればいいなという思いで参加することにしました。
── どのような活動をしているのですか。
中井さん:がんに関するエビデンスのある正しい情報を届けるためのセミナーを行ったり、知識を深めてもらうための冊子を作ったりしています。がんと言っても希少がんも含めてたくさん種類がありますので。理事長はじめ、医師や看護師など医療関係者やマスコミの方が理事に就任しています。
── 日本人の2人にひとりががんに罹るとも言われています。
中井さん:私の両親はどちらも他界しているのですが、父は肝臓がんが原因で亡くなっていますし、母も直接的な原因は別ですが、初期の胃がんがあって内視鏡で何回か手術をしていました。親戚もがんになる人が多いです。がんについてはおそらく誰もが他人事ではないと思っているはずなのですが、やっぱりよくわからないというのが正直なところですよね。早期に見つかって治療したら治るものもあるとわかっているのに、「自分はそうならないだろう」とか「本当にがんだとわかったら怖いから調べない」という矛盾した考えに陥ってしまっています。
でも、実際にがんと診断された方はみなさん口を揃えて「もっと早く調べればよかった」と言うんです。怖いのはわかりますし、忙しいことを理由に行きたくないというのも、私が同じタイプなのでわかります。でも結局、自分が行かないと、ほかの人が代わりに検診は受けてくれません。やはり、しっかり定期的にがんの検診を受けていくことが大切だと思います。
── 正しい知識を得ることの大切さはわかってはいても、行動に移すのは難しいですね。
中井さん:いつか、がんと診断された場合のことを想定しておくことは、心構えとして大事だと思います。その際にセカンドオピニオンをとるかなど、選択肢を事前に知っていることも大切です。「これをしたら治った」という根拠がないものを善意で勧めてくる方がいますし、不安な気持ちからそういうものにすがってしまって、肝心の治療が遅れてしまうというケースもあるので、やはりその患者のガイドラインに沿った治療をきちんと受けることをお勧めしたいです。あとは、保険もどこまでカバーできるかを把握して、活用できる医療制度も知っておくこと。また、家族と事前に自分の希望を話しておくアドバンス・ケア・プランニング(ACP)もとても大事だと思います。
治療に関しては、自分に意識がなかったら親や夫、子どもがその選択を引き受けなければいけません。それを担うのはどんなに近い間柄とはいえ重荷だと思うので、最初から自分がどういう治療を望むのか話しておけば、家族も本人の意思を尊重できるのでいいと思います。