「余命宣告を受けたので、これから何をしたらいいですか」

── 「ママ友ドクター」とはなんですか?
西村さん:子育て仲間「ママ友」の延長のような感覚で、私が持つ医者としての専門知識だけではなく、子育ての体験談も共有しながら、一緒に笑って泣けるようなドクターです。特に発達に特性を持つ子を持つママやパパの支えになり、寄り添う活動をしたいと思い「ママ友ドクター」と名付けました。
── コロナ期に乳幼児健診を動画配信したことが「ママ友ドクター」になるきっかけだったんですね。
西村さん:それもあるのですが、実はその前年にあるお母さんとの出会いがあって、診察室の外の活動をしようと考えたのが最初です。当時、私は大学病院で働きながら発達専門外来を担当していました。自分なりに子どもの発達特性とその育て方で悩むお母さんたちに貢献しているつもりだったのですが、2019年秋、息子さんに発達特性があり集団適応で悩み1年ほど通ってくれている1人のママがこう言ったんです。「乳がんが再発して余命宣告を受けたので、(発達特性のある息子を含む)2人の子どもが成人するまで見届けられなくなりました。これから何をしたらいいですか?」と。
同じ女性同士、母親同士であれば2人で涙して「それはつらいね。私にできることは何でも言ってね」というような言葉をかけるのに、診察室で白衣を着ている自分は医師として個人的な交流はふさわしくなく、そんな言葉を言っちゃいけないと一線を引いて淡々と対応してしまいました。その日を境に「私、全然ママたちに寄り添う活動ができていない」という考えが頭から離れませんでした。診察室で白衣を着て、相談を待っているだけじゃだめだ、診察室の外で何かできることはないか、と考える中で「ママ友ドクター」という発想が生まれていたんです。
── 1人のお母さんとの出会いが心に残っていたのですね。
西村さん:はい。当初は、次男を産んだら産休に入るし、産休中に「ママ友ドクター」として相談会など開こう、と考えていました。それがコロナで対面の相談会はできなくなったので、YouTubeやSNSでの発信をがむしゃらにやり続けた結果、少しずつ企業などからセミナーの依頼がくるようになりました。並行してオンラインコミュニティ「子ども発達相談アカデミー VARY」を立ち上げ、2024年には一般社団法人 日本小児発達子育て支援協会を設立しました。
── その後、「ママ友ドクター」のきっかけとなった方とは会えなくなってしまったのでしょうか。
西村さん:産休明けて復帰するつもりが、新型コロナウイルスの流行で幼い子を抱えて病院に出入りして診察できる状況ではなくなってしまい、さらに「ママ友ドクター」の活動が本格化したので、そのお母さんのことが気になりつつも5年間は会えない状況でした。そのことはずっと心残りで…。でも、昨年メディア取材を受けた記事をみた彼女がSNSに連絡をくれたんです!それはそれは嬉しくて号泣しました。先日再会することができたのですが、今回は医師と相談者ではなく「ママ友」として会いたいと思っていたので、食事に行ってたくさん話をしました。今度、2人のお子さんとも会わせていただく予定です。