岩手県で助産師として活動する佐藤美代子さんは、東日本大震災による大津波で甚大な被害にあった沿岸部のお母さんたちを支えました。その後「NPO法人まんまるママいわて」を立ち上げ、現在も地域の妊産婦のケアを精力的に続けています。そんな佐藤さんが助産師を目指したのは、コギャル仲間の女子高生たちへの忸怩たる思いからだったそうです。(全2回中の1回)
女子高生のときは「性行為は本人の自由」と思い込んでいた
── 佐藤さんが助産師を志した当時のお話を聞かせてください。
佐藤さん:「助産師になりたい」と最初に思ったのは高校2年生のときでした。小学6年生のときに両親が離婚して父子家庭になったのですが、父は転勤で地元から離れたので、私は祖父と妹と一緒に暮らしていました。週末になると父が帰ってくるのですが、当時の私は母に甘えられず寂しかったんでしょうね。気づくと、自分と同じように寂しい思いを抱える女の子たちと遊ぶようになりました。
私、1978年生まれのアムラー世代なんです。高校生のころは「コギャル」が一世を風靡し、ギャル向けの雑誌『egg(エッグ)』が流行っていて。短いスカートとルーズソックスが定番で、ポケベルやPHSをみんなが持って歩いていた時代です。

── そうだったんですね!
佐藤さん:まわりの女子高生たちの間では、性行動が活発でした。援助交際も増えていて…そんな環境が当たり前になっていた私は「性行為をするのは本人の自由だし、本人が選択したことだからまわりがとやかく言う必要はない。妊娠すれば中絶という方法があるんだから」と思い込んでいたように思います。
でも、現実は違っていた。友達の話を聞くなかで、少なくとも性行動に関しては「本人が選んだことだから」で済ますなんて、とてもじゃないけどできないと思い知ったんです。
もっと早く教えてほしかった「自分の身体を知る」大切さ
── それはどういうことでしょうか?
佐藤さん:自分の身体のことで悲しい思いをしたり、つらい思いをしながら産婦人科に通ったりする友達や知人がいて。私は、彼女たちにどんな言葉をかければいいかわかりませんでした。そんななか看護学校に進学したのですが、授業で女性の身体の構造について詳しく知って、衝撃を受けたんです。
女性特有の臓器である子宮は受精卵が着床し赤ちゃんが育つ場所ですが、子宮の先にある卵管、さらに先にある卵管采は、腸や肝臓などの腹腔内と繋がっています。例えば性感染症のクラミジアなどが、子宮の中で収まらないときは、腹腔内にも感染が広がる場合があります。それが原因で最悪の場合は不妊症になったり、二度と子どもを望めない身体になってしまったりすることもあるんです。妊娠したら中絶すれば終わり、病気になったら治療すればいいなんて、簡単に言ってはいけない。しかも、身体だけでなく心もすごく傷ついてしまうんですから…。
授業中に「自分の身体を知ること」の重要性を痛感したのと同時に、ものすごい怒りがこみあげてきて、母性看護学の担当の先生に思わず問い詰めていました。「どうしてこんなに大事なことを誰も教えてくれなかったの?」って。傷ついた子たちのことを思うと、女子高生だった自分たちが性に対して無知だったことがすごく悔しかったんです。
「今の女子高校生たちに、女性の身体の構造についてちゃんと伝えたい」と言ったら、先生は「だったら助産師になりなさい。助産師は性のスペシャリストだから」と教えてくれました。「性の病気や中絶の怖さをどんなに訴えても、人は動かない。命が生まれる現場にあなたが立って、命が生まれることの意味、そして自分の身体を知ることの大切さを伝えなさい」って。その先生のひと言で助産師になることを決めて、助産師資格を取得しました。