表皮水疱症という難病を抱える方の食事のアプローチに挑戦した医師がいます。「世界一やさしいチョコレートandew」の代表・中村恒星さんに、学生時代に立ち上げたブランドに込めた思いを伺いました。

食が細くなる患者のために

都内の病院で医師として勤務する中村恒星さんは、2020年に「世界一やさしいチョコレートandew(アンジュ)」というブランドを立ち上げました。中村さんが医療の道を目指すきっかけとなったのは、自身が現在も抱える病気でした。

 

表皮水疱症の患者のお子さんと中村医師
表皮水疱症の患者のお子さんと中村医師

「生まれた時から、難病指定されているファロー四徴症という心臓の病気を患っています。幸い手術がうまくいき、行動制限などはなく生活できていますが、現在も経過観察中でいずれ手術や治療が必要になります。今ある命を誰かのために繋げたいと思い、学生時代に難病の患者さんの活動をお手伝いさせてもらっていました」

 

当時、北海道大学医学部の学生だった中村さんが出会ったのは表皮水疱症という難病でした。

 

「皮膚科の先生から紹介していただいて表皮水疱症の患者会の運営ボランティアをさせてもらっていたんです。患者さんは、食べることや服を着ること、歩くこと、化粧品など日常生活のなかで肌に接するものすべてに痛みやつらさがあると知りました。何かできることはないかと考えて、食事のアプローチをしてみたいなと思ったのがきっかけです」

 

表皮水疱症は、皮膚を保持するタンパク質が欠損していることから、日常生活で皮膚に加わる力に耐えきれず、皮膚が剥がれて水ぶくれやただれなどが生じてしまう病気です。中村さんは、患者さんから食べられる食事が限られることや、食が細くなってしまうことについて話を伺っていたといいます。

 

「患者さんが、ポテトチップスを食べるとトゲがついた板を食べるようなくらい痛いとおっしゃっていました。お子さんのなかには、口の中で溶けやすいボーロなら食べられるという子もいました。痛みを伴わずに食べるにはどんな食べ物がいいのか、スーパーでいろんなものを買ってきて試したんですが、とにかくうまくいかなくて。試行錯誤した結果、溶けやすく栄養があるものを混ぜやすいチョコレートにいきつきました。もともと僕が好きだったこともありますし、人からいただいてもうれしいですよね。病気を治すのは治療ですが、心に寄り添うという役割ができるものを作れたらと思いました」

 

中村さんはその後、チョコレートの試作品を重ねていきますが、自身の限界を感じてプロに協力のお願いをしたといいます。

 

「患者さんは少しの量しか食べられないので、柔らかいけれど、少量でも栄養があって、気軽に持ち運べておいしいものを作りたいと思っていました。ただ、さすがに素人には限界がありました。自分で探して買いに行ったことがある札幌のチョコレート専門店・SATURDAYS CHOCOLATEさんに、スクロール2回分は必要なほど長文のメールを送って、協力していただきたい旨を伝えたんです。店の方からはいったん話に来てほしいと。そこで、レシピ開発に協力していただけること、開発費は要らないことをおっしゃっていただいて本当にありがたかったです。

 

プロの力添えをいただきながら栄養学科の子と一緒に開発に取り組みました。開発中は、かぼちゃのタネを入れたらえぐみが出てしまって失敗。きなこを入れるなら炒ってからの方がいいとか、塩を少し加えたほうがいいなど、おいしさと栄養のバランスを保つことが難しかったです。タンパク質やビタミン、ミネラルなども入った栄養価が高くカロリーを抑えたチョコレートが出来上がりました」

 

中村医師のチョコレート開発中の様子
栄養の配合と味のバランスに苦戦したという商品開発中の様子