男児4人の父親でもある歌手の木山裕策さんは、家を購入した1年後の35歳で甲状腺がんが発覚。病気をきっかけに挑戦したオーディション番組では、1回目に不合格となり、大泣きする子どもたちを見て、木山さんは「夢への挑戦は自分のエゴなのだろうか」と葛藤したそうです。(全4回中の1回)

家を購入し、昇進した1年後に悪性がん「悪夢のようだった」

木山裕策

── 甲状腺がんが見つかったきっかけを教えてください。

 

木山さん:会社の人間ドックです。血液検査では異常なしだったのが、内科健診で医師から「喉が少し腫れているから、一度検査したほうがいい」と言われて、大きな病院に行ったんです。そうしたら、がんの診察でよく行われるらしい、病変のある組織の一部を取って顕微鏡で調べる検査をすることになって。甲状腺に2×3センチの悪性腫瘍が見つかりました。

 

甲状腺がんは静かに進行するらしくて、初期症状が感じられないことが多いそうなんです。僕も何の症状もないまま診断から1か月後くらいに緊急手術をしました。とにかく突然すぎて混乱しました。

 

木山裕策
手術直後の木山さん

── お子さんたちもまだ小さかったのではないでしょうか。

 

木山さん:4人兄弟のうち、長男が小学3年生でした。末っ子の四男はがんが治癒してから生まれましたが、がん発覚時は家のローンを組んだ1年後で、会社でも35歳で課長になったばかり。とにかく人生でいちばん忙しい時期でした。

 

あと、甲状腺がんって、男性よりも女性のほうが罹患率が高い(※)らしいんです。甲状腺がん関連の本がすごく少なくて、知りたい情報もほとんど見つけられず困りました。

(※)女性11.5人:男性4.5人、2010年、全国年齢調整罹患率(対人口10万人)/環境省

 

僕は、甲状腺を全摘出する手術を受けたのですが、手術の前日に担当医から「声帯を傷つける可能性があり、最悪の場合は声がまったく出なくなる」と言われたんです。「人生って、起きてほしくないことがこうも一度に起きるものなのか」と絶望しましたね。悪夢を見ているようでした。

 

ただ、手術は成功して、なんとか声帯もきれいに残りました。その後、同じ病気の人とたくさん会いましたが、なかなか難しい手術のようで…。「今のように声が出せて、歌えることは、たまたま運がよかったんだ」と実感するばかりです。