医師から本気の言葉に「自分をいたわろうと」
── 一時期休養に入られています。当時はどんな状態だったのでしょう。
田中さん:時代劇の後も主演映画の撮影が控えていたけれど、だいぶ苦しくなっていて、自分ではどうにもできない状況でした。お医者さまにそう話したら、「明日から仕事を休んでください」と言われて。でも映画の撮影が決まっている。そうはいかないと伝えたら、お医者さまが「事務所の人と話してドクターストップをかけます」と言ってくださった。もちろん事務所の方が悪いわけではありません。私自身のなかに「もっと頑張らなきゃ」「迷惑をかけちゃいけない」「休むなんて」といった気持ちがあったんです。でも、そこから3か月間お休みをいただいて、復活することができました。
── 快方に向かうきっかけとなったものとは?
田中さん:やはりお医者さまがそこまで言って守ってくれようとしたことが、私にとってはいちばんの薬になりました。休むにしても「ただ休むだけじゃなくて、いままでやりたくても我慢してきたことをやりなさい。自分が本当に楽しいと思うことをやりなさい、それが薬だから」と話してくださった、お医者さまの言葉も大きかったですね。これはやっちゃダメ、あれはやっちゃダメと、自分で自分を抑えつけていたところがあったのだと思います。
── その経験を経て、考えに変化はありましたか?
田中さん:自分のことをちゃんといたわろうと思うようになりました。体調を崩してしまうその前に、自分を解放してあげる術をちゃんと身につけようと考えるようになりました。
もともと人とのコミュニケーションが苦手で、無意識に我慢したり、何も言わずに踏んばってしまうところがありました。でも、相手からすれば、きっとわかりにくいですよね。何を考えているかわからないから、勘違いされることもあったと思います。でも「いまちょっとしんどくて」と言葉に出して伝えれば、解決策を考えてくれたり、「じゃあ、ちょっと休んだら」と言ってくれたりする。ひとりで抱え込まなくていいんだ、ちゃんと表に出さないといけないんだということは、体調を崩した後、すごく感じるようになりました。
「自分はいま我慢している」ということをうやむやにしないこと。それを気づかないうちにため込んでしまうと、体の不調につながってしまう。自分の本当の気持ちに気づいて、どこかでふっと息をすることが大事なのかなって思っています。
PROFILE 田中美里さん
たなか・みさと。1977年生まれ、石川県出身。1996年 第4回「東宝シンデレラ」審査員特別賞受賞。1997年、NHK連続テレビ小説『あぐり』のヒロインに抜擢されデビュー。その後、数々の映画、ドラマ、舞台のみならず、『冬のソナタ』のチェ・ジウの吹替えや、ナレーションなどでも活躍。bay-FM 『Morning Cruisin'』ではパーソナリティを20年以上担当。帽子ブランド『Jin no beat shi te cassie』のプロデュースも手がける。2025年1月24日に出演映画『美晴に傘を』の公開を予定。
取材・文/小野寺悦子 写真提供/アンプレ