歌手のMISIAさんの母・伊藤瑞子さん(79)は、小児科医として働きながら71歳で大学院生となりました。「発見があり新鮮だった」と話す、社会人経験が活きた学生生活とは──。(全4回中の4回)

小児科医と大学院生の二足の草鞋を

── 71歳のときに大学院に通い始めたと伺いました。

 

伊藤さん:今から8年前のことになりますが、入学願書をもらいに行ったときに「年齢制限はありますか」と聞いたら、「ちょっと別室でお話伺わせていただきます」と言われました。そこで「ちなみに、どなたかがお受けになるんですか」「私です」とやりとりをして、年齢制限はないとのことだったので、論文試験を受けて入学しました。

 

伊藤瑞子さん夫婦
伊藤瑞子さんご夫婦が離島で医師を務めていたころの2ショット「白衣姿がお似合いです!」

今も女子会のような形で先生や仲間と集まることもあります。講演会の原稿をチェックしてもらうこともありますし、いろいろとアドバイスをもらったり、参考になる文献を送ったりもしてくれています。いつまでも楽しみな集まりになるだろうと思います。

 

── 小児科医の仕事をしながら大学院生として学んでいたそうですね。

 

伊藤さん:通っていた大学院は社会人も受け入れるために土曜の午後や通常授業の後にも講義がありました。そのころ、長男がアメリカから帰国して診療所を継いでくれていて、私たち夫婦の仕事は週4日勤務になっていたこともあり、仕事をしながら受講することができました。

 

授業でいろんな話を聞けるのは楽しかったです。自分ひとりではなかなか頭に入らないことも、要点を教えていただけると、頭の中がリフレッシュされる感覚でした。つくづく私はこれまで受験勉強と医学の勉強しかしてこなかったんだなと感じましたね。それに、一度社会人を経験していると、もう一段階、深く腑に落ちる感覚があるんです。「そうか、これはそういうことだったのか」という発見があって新鮮でしたよ。

 

── 大学院ではどんなことを学んだのですか。

 

伊藤さん:私の実体験から来ているのですが、男女共同参画社会や、育児休業制度などの制度が充実しているこの時代になってもまだ働く女性の立場が医療現場でも改善されていないと感じていたので、どうしたら女性が子どもを育てながら働きやすくなるのかと考えていました。日本にはあるべき父親像の議論がないとも思っていました。

 

そんなとき、フランスがどう少子化を克服したかという本を読んで、2週間で男性を父親にするための産休をとることを知りました。そこから夫婦間で「育児の共有」をするという言葉を思いつき、大学院でまとめてみたいと思ったのです。「育児の共有」には、夫婦や社会全体で子育てを共にしていくことが解決策になるのではとの願いを込めています。政府広報にも、最近は「共育て(ともそだて)」という言葉があるようですし、男性の育休制度も充実しました。言葉ができれば文化が生まれますので、これからに期待したいです。