マイナーなスポーツ競技では、経済的な苦労はつきものです。フリースタイルカヤックで世界チャンピオンの高久瞳さん(42)もそのひとり。でも、悲壮感はいっさいありません。懐事情と生活への本音を明かしてくれました。(全3回中の2回)

「遠征も試合も自腹」貯金とアルバイトでやりくり

高久瞳さん
生活のために大魚も釣っちゃう高久瞳さん

── 高久さんが取り組んでいるフリースタイルカヤックは、日本ではマイナー競技だと思いますが、資金のやりくりなどは大変ではないでしょうか?

 

高久さん:フリースタイルカヤックは「水上のロデオ」とも呼ばれる競技です。川や湖、人工のコースで宙返りなどのアクロバティックな技の美しさや難易度を競います。欧米では人気競技ですが、残念ながら日本ではマイナー競技。スポンサーがほとんどつかないこともあり、金銭面は大変です。練習するのも大会に行くのも海外遠征も、ほぼ自費です。海外に行くときは飛行機や宿泊場所、レンタカーなど、すべて自分で手配しています。ふだんの生活でも、節約をつねに心がける毎日です。貯金を切り崩しつつ、単発のアルバイトなどで収入を得ています。また、全国で応援してくださる、理解ある仲間からのカンパにも助けられてもいて、とてもありがたいです。

 

カヌーに乗る高久瞳さん
激流でのアクロバティックな技は、目を奪われるほどの迫力

私がフリースタイルカヤックに出合ったのは、2004年、社会人1年目の夏でした。すぐに夢中になり、いずれはカヌーに専念したいと思うようになったんです。環境を整えるために、まずはお金を貯めようと、正社員として10年間働きました。目標貯金額は年間100万円。実家暮らしで家にもお金を入れていましたが、昼食代は1日200円と決めていたんです。もともと節約好きだったので、半額のお総菜を探したり、198円のお弁当を見つけたりして過ごしていました。

食費を浮かすために「魚を釣り山菜をとることも」

── まさにカヌーひとすじ。とてもストイックに取り組んでいるのですね。

 

高久さん:よくそのように言われるのですが、実際はストイックな感覚はありません。カヌーに取り組んでいる理由は、シンプルに楽しいから。すべてを犠牲にして、競技に身をささげているわけではありません。カヌーに乗っているときは、自然の中に身を置いています。すると、お金の問題はたいしたことではないと感じて…。海外では宿泊費を浮かすため、ひとりでテントに泊まることも。練習帰りに夕食として魚釣りや河原に生えている山菜を摘み、食費を浮かす場合もよくあります。自然のなかでとれたての魚や山菜を食べるのは、体にもいいし、おいしいし、お金もかからない。ある意味で最高のぜいたくですね。

 

── 釣った魚をさばいたり、山菜を調理したりすることは以前から行っていたのですか?

 

高久さん:以前は魚もまったくさばけませんでした。釣りを始め、何度も挑戦するうちに覚えました。カナダに遠征に行ったときは、ナマズやスモールマウスバスを釣っていました。泥くささもなくて、白身魚のうまみを味わえます。北海道でも川釣りをすることがあります。山菜も最初は見分けがつきませんでしたが、少しずつ食べられるものを学んでいきました。川の近くにはおいしいものがたくさんあるんです。