海外ではテント泊「選手の家に泊まることも」
── 先ほど、海外ではひとりでテント泊をすることもあるとのことでしたが、治安面で心配はないのでしょうか?
高久さん:私が行ったのは、川のアクティビティの設備が整った場所です。基本的にカヌーの練習を目的とした人しか訪れない場所だから、一般的なキャンプ場とは少し事情が異なると思います。もちろん、ひとりで泊まるのが難しい国や地域もあります。そういうときは民泊サービスを探したり、海外の試合で仲良くなった選手の家にホームステイさせてもらったりしています。今年はドイツで世界大会がありましたが、ジュニアの選手とそのお母さんと仲良くなって「一緒に練習したいから、ぜひカナダに来てほしい」と言ってくれたので、お邪魔させていただきました。
── 自宅に招かれるほど仲良くなるとは…!語学は得意なんですか?
高久さん:それがまったくなんです。学生時代、どうして語学の勉強をもっとしなかったんだろうと後悔しているくらい。英語もカタコトだから、日常会話もわりと厳しくて…。でも、海外の人は「この人は英語があまり得意じゃないんだな」と気づくと、ゆっくり話してくれます。
相手に不便をかけている部分はあるとは思うのですが、競技で知り合った仲間は、カヌーという共通の話題があります。文法をよくわかっていなくても、友人同士だったら冗談も言えるし、ジェスチャーと表情でなんとかなります。「スマイルとグッドサイン」は最強ですね。ドイツの世界選手権のときは、インドやバングラディッシュの選手とも仲良くなり、練習から帰ると手作りの食事をごちそうしてくれました。
── どんな状況でも楽しめてしまうポジティブさが素敵です。
高久さん:順応性は高いと思います。物事の悪い部分ではなく、いいところに目がいくタイプ。どんなときでも、自分の置かれている状況を楽しめるんです。試合のときも勝敗にとらわれるのではなく、他の選手がいい成績を残すとうれしいし、大技を決めるプレーを見ると「こんなに高度な技を決められるなんて!私も頑張ろう」とモチベーションが上がります。大好きなカヌーにずっと取り組めて、最高に楽しい毎日です。
PROFILE 高久 瞳さん
たかく・ひとみ。1982年生まれ。東京都出身。フリースタイルカヤック選手。社会人となった22歳の夏からカヤックを始めた。2011年度から国内大会に出場し始める。2012年度には日本代表選手となりワールドカップへ参戦開始、2013年度にはワールドチャンピオンシップでK1種目で銀メダル獲得。2019年、ワールドチャンピオンシップで念願の金メダルを獲得。
取材・文/齋田多恵 写真提供/高久 瞳