人生経験が講談の深みを増す

── 美人講談師ですとか、4児の母というふうに取り上げられて注目される機会も多いですね。

 

貞鏡さん:キャッチーにご紹介いただくことでいろんな角度から興味を持っていただき、目に留めてくださるきっかけになることは嬉しいです。ただ、それだけに頼りたくはありません。先日、とある取材で私の事を「美人講談師」とご紹介していただいた後に、読者の方々から、「騒ぐほどの美人ではない」「日本の美の基準も落ちたものだ」との声がありました。なぜか私が無駄に傷つけられましたよ(笑)。

 

いろんな形でご紹介いただけるのはとてもありがたいことです。その中でも「芸人は芸」。講談師は講談が勝負ですので、芸で結果を残せるようになりたいです。講談師は、自分が覚えたことをそのまま高座で話すのではなく、その日にいらしてくださるお客様の反応に合わせて内容や話し方を変えていきます。それが生きた話芸のおもしろみでもあり、醍醐味でもあります。自分の人生経験がすべて勉強になりますし、いかに知識や経験があるか、付録がたくさんあって、それをどのくらい引き出せるか。人生経験が増すごとに講談にも深みが増していくように私は感じます。

 

講談は難しいですとか、堅苦しい、古臭いという印象もまだまだあると思うんです。落語は知っているけど、「講談って何?」と聞かれることも多いです。皆さんに身近に感じてもらえるよう、もっと私自身が勉強して掘り下げていき、と同時に私自身がより魅力的な芸人になりたいです。私が経験したことや、これから経験することの酸いも甘いも嚙み分けて、それらを高座に活かし、講談の魅力をおひとりでも多くの方に伝えていく人生にしたいです。

 

PROFILE 一龍斎貞鏡さん

いちりゅうさい・ていきょう。実父に講談師八代目一龍斎貞山、祖父に七代目一龍斎貞山、義祖父に六代目神田伯龍を持ち、世襲制ではない講談界に於いて初の三代続いての講談師。連続物などの古典演目の他、ピアノを弾きながら講談を読むピアノ講談、子ども向けの紙芝居講談など新たな挑戦も行う。現在、4児の母として芸道と子育ての両立に適進中。

 

取材・文/内橋明日香 撮影(サムネイル)/橘蓮二 写真提供/一龍斎貞鏡