もう、お笑いの道はしんどいのか…
── 介護の仕事は大変というイメージが強いです。
りんたろー。さん:お迎えからお着替え、食事やお風呂の介助、泊まりの勤務もありました。基本的に1日の生活の流れすべてが仕事でしたね。正直なところ、最初は他人の排泄介助の仕事をうまくできるのかなという不安はあったんですが、いざやってみたらまったく気になりませんでした。むしろ、汚いままでいて気持ち悪そうにしている利用者さんを「早く気持ちがいい状態にしてあげなきゃ」という思いが優先されて、ぼくの中ではまったく引っ掛からなかったです。介護の仕事をしてみて、一番印象が変わったのが排泄介助だったと思います。
── 高齢化が進む日本でますますニーズが高まっているにも関わらず、介護業界は常に人手不足だと言われています。
りんたろー。さん:それはぼくも働きながら感じていました。特に男性の方がすぐに辞めてしまう印象で。利用者さんの体を持ち上げるとか、男性の力が必要な場面が多いのですが、どうしてもやりがい搾取と言いますか、賃金などの待遇面では、やる気がある方に甘えてしまっている現状があるんだと思います。必要とされる方が多い仕事なので、どうにか改善してもらえないかなと思うんですが。
── 介護の仕事が、その後の芸人人生に活きたことはありますか。
りんたろー。さん:介護関係の仕事でテレビに出させてもらったり、ギャップが生まれたことでエピソードが作れたり。でも一番大きかったのは、前のコンビが相方の不祥事で解散したあとのことですね。そのときに結構ニュースになって、「終わった」と感じていたんです。
お笑いの方はみんな知っているし、ここからピン芸人になったとしても新しくコンビを組むにしても、「あのときのコンビの人だよね」と、使いづらいと思われるんだろうなって。「もう、お笑いの道はしんどいのかな」と思っていました。
ある日、施設の利用者のおじいちゃんを車椅子に乗せて、公園の並木道を散歩していたんです。そしたらその方が、「にいちゃん、芸人さんなんだろう。頑張れよ」って声をかけてくれて。その方は認知症も始まっていたんですけど、ぼくが芸人だということは覚えてくれていて。その言葉をかけてもらったときに、自分が気にしているものとか、ネックになるだろうと考えていることって、あくまで狭い世界での話で。世間一般で考えたらぼくのことを知っている人の方が少ないですからね。落ち込んでいる暇があるなら、もう一度、もうこれ以上できないところまでこの道でやってみようと奮起できたんです。それまで、まだやりきったという実感もありませんでしたし。
── そこから現在の相方である兼近さんとお笑いコンビ、EXITを組んで大ブレークされました。
りんたろー。さん:あのとき、もう一度頑張ろうと思えたのはおじいちゃんのおかげですね。認知症の方は、最近の話は忘れてしまうことが多いのに、よく覚えていてくれたなって。何回も同じ話をすることも多いんですが、昔の話は結構クリアに覚えていて、戦争の話や「昔は結婚する相手を結婚式当日に知ることも多かったんだよ」とか、今では考えられないような話を聞くのも興味深かったです。そういう会話を通して、利用者さんがだんだん心を開いてくれたのも貴重で楽しい時間でした。介護は芸人としての糧を作ってくれた仕事ですね。
PROFILE りんたろー。さん
1986年生まれ、静岡県出身。2017年に兼近大樹さんとお笑いコンビEXITを結成。プライベートでは2022年8月にタレントの本郷杏奈さんと結婚、昨年11月に第1子が誕生。
取材・文/内橋明日香 写真提供/りんたろー。