アルコール依存症役で感情を爆発!「新しい自分に出会えた」
── 役者業は、聞けば聞くほど奥深いですね。役者としてのやりがいを感じる瞬間は?
隅田さん:お客さんからの反応が返ってくる瞬間ですね。小劇場だとお客さんとの距離が近いため、顔も見えますし、寝ている姿すらわかります。泣いたり、笑ったり、息づかいや匂い…リアルな反応がおもしろいです。やはり一番嬉しいのは、最後のカーテンコールで起こる拍手ですね。
── 逆に、大変だと感じることは?
隅田さん:私は読解力がとぼしい、というか台本を読むのが遅いです。活字を読むと、秒で眠くなるんですよ(笑)。もちろん、工夫して台本を読みますが、このプロセスが一番しんどいです。私の場合、実際に出演者と一緒に動きながら稽古するほうが吸収できることが多いです。もう、ふだんから活字を前にすると眠くなってしまいます。よく電車の中で本を読む人がいますが、私の場合、本をたくさん読みたいのに、本が子守唄みたいになってしまいます。
── その気持ちはよくわかります(笑)。ところで、隅田さんは、役柄に関しては好みや得意分野はありますか?
隅田さん:いまはなんでも経験しておきたいので、よほどのことがないかぎりすべてお受けしています。もっといろんな作品を経験すれば、自分はこういう人たちとこんなのをやりたい、というのはだんだん固まってくると思います。
── 今後、役者としてやってみたいのは?
隅田さん:感情をもろに出す役、感情を思いっきり爆発させる役をあまりやったことがないので、やりたいです。一度だけ、そういう役をやったことがあり、自分の違う一面を発見できました。そのときは「アルコール依存症のお母さん役で、最後に娘に首をしめられて殺される」という役でした。これまではいじられたりする役が多かったんですが、感情を爆発させる役を通して、自分ってこんな表現や表情をして、こんな声が出るんだ!と気づいたんです。毎日しんどかったけど、本当に楽しくて、すごくやりがいを感じました。
── 知らなかった自分を発見!演じる役の影響を受けることはありますか?
隅田さん:アルコール依存症のお母さん役では奇声を発して暴れ出し、薬がきれてうわーって叫ぶというシーンがありましたが、この公演中は一瞬で泣けました。秒で泣けるスイッチが自分のなかに備わっている状態でした。だから、公演期間が終わってからも、しばらくはいつでも泣けましたよ。いまでもすぐ泣けるかはちょっとわかりませんが…。感情表現の激しい役はパワーが必要なので、ふだんの自分にも影響を与えますね。
「元アジアン」より「隅田美保」として見てもらえるように
── アジアン解散後の隅田さんについては、ネットニュースなどでイメージが先行している部分もあるように感じます。これだけは言いたいということはありますか?
隅田さん:言える範囲は全部言ったような気がしますが、とにかく、ブス・ブサイクでいじられるのがイヤで芸人をやめたのではありません。理解されづらいかもしれませんが、あのときが役者になるタイミングだったんですよね。ほかにも、山ほど誤解されているなぁと思うことがありますが、いつかときが来たらお話ししたいなと。
── 話題になることも多いですね。隅田さんのインスタ写真を見て「美人になった!」と盛り上がっている方々もいますが、隅田さん自身はどう感じていますか?
隅田さん:本当に二次災害が起きてますよ(笑)。私は、ビューティーアプリを使っていると明言しているのに、「最近、美人になった」という記事が出て、それに呼応して「そんなこと言うから、隅田が調子にのるんだ!」って書かれて、私がとばっちりにあう。いやいや、私いつ調子にのりました?そんな場面見ました?って(笑)。まぁ、ネットニュースでおもしろおかしくいじっていただけるのは、ある意味、ありがたいことかもしれませんが、本当に信じてしまう人たちがいるとね…。腹が立つというより、あきれることもありますが、「こんな私のことを覚えていてくれてありがとうございます」という気持ちです。
── 世の中の方々の記憶には、芸人としての隅田さんがまだ強く残っているんですね。隅田さんは、今後どんなふうになりたいですか?
隅田さん:もっと役者業を頑張って、いろんなところに出演できるようになったとき、「元アジアンの隅田」ではなく「隅田美保」で検索した人が、「この人、もともと芸人やってたんだ!アジアンって聞いたことあるかも?」と気づいてくれたら嬉しいです。私のこと、そもそも「芸能活動をやめた」って思っている方も多いですね。引退した、吉本もやめた、って。それでもかまわないですが、「漫才やってブサイクっていじられてたあの人が、じつは役者になってここまできたんだ」と思ってもらえるよう、頑張りたいです。
PROFILE 隅田美保さん
すみだ・みほ。兵庫県出身。NSC(吉本総合芸能学院)大阪校20期生。2002年、アジアンを結成。漫才で多くの賞を受賞し、『M-1グランプリ2005』決勝に進出。2021年6月、コンビを解散し役者に転身。
取材・文/岡本聡子 写真提供/隅田美保、吉本興業株式会社