中学受験を視野に小4から塾通いを始めた息子が突然、「塾を辞めたい」と言い出して──。高橋香奈子さんが息子の将来を真剣に考えてくだした決断は、母と子2人での海外留学でした。
「周りも行っているし」小4年から塾へ
── 高橋さんは、これまでしていた仕事を続けながら、息子さんが小学6年生の8月にカナダへ渡り、現在も母子で留学生活を送っています。留学前に、息子さんは中学受験の塾に通っていた時期があったと伺いました。
高橋さん:東京で住んでいた地域の小学校では8割くらいの子が中学受験をしていました。小学校2〜3年生から塾に行き始める子も多かったです。周りがみんな塾に行っていることもあって、息子も小学4年生のときに「塾に行きたい」と言い出したので、通い始めることにしました。私も「周りも行っているし、本人もそういうならいいかな」と思っていました。
親として中学受験は、絶対させたいとも絶対させたくないとも決めていませんでしたが、「塾に行き始めたということは、ここまま塾に通って、みんなと同じようにうちも受験するんだろうな」と思うようになりました。
── 塾に通い始めてみていかがでしたか。
高橋さん:行きたくないという日もたまにあったのですが、塾に行くことで学校の勉強もよくわかるようになったと言っていて、新しい友達もできて楽しそうにしていました。
でも、小学5年生になると今度は「塾を辞めたい」と言い始めて。理由を聞いてみると、「同じ場所で決められた時間に、気分が乗らない時も勉強しなくちゃいけないこと」が嫌だったようです。
当時のことを今振り返ると、私自身に中学受験をさせたいという強い意志がなかったので、息子に目的意識をもたせることができていなかったのも原因だと感じました。無理矢理「行きなさい」と言うこともできたのですが、勉強は本人にやる気がないとできないと思っていたので、思いきって塾を辞めることにしたんです。
── 住んでいた地域は中学受験を選択するご家庭が多かったとのことですが、塾を辞めることへの不安などはありませんでしたか。
高橋さん:不安はもちろんありました。正直なところ、いくつかの選択肢から子供にとってのベストな道として中学受験を決めたわけではなく、流されるままにここに来たので、この先どうしていけばいいのかわからなかったからです。
これまで仕事と子育てに追われて、毎日をただ乗り越えていくだけで精一杯。時間までに子供を保育園や小学校に送り出し、お迎えの時間までに仕事を終わらせ、そこからいかに子供を早く寝かせるか…。とにかく毎日が時間との戦いで、子供としっかり向き合えていたかと言われると、自信をもって「はい」と答えるのが難しいくらい余裕がありませんでした。
でも、子供の「塾を辞めたい」という言葉がきっかけで、私自身「子どものためにも、このままの生活じゃダメだ!」と気づけたんです。中学受験をせずに公立の中学に行っても、高校受験、その後は大学受験がやってきます。中学受験を避けて高校受験ならうまくいくのか…というのも不安でしたし、もう同じような失敗はしたくないという気持ちもあり、この先の子供の将来について、一度立ち止まって真剣に考えなくてはという気持ちになりました。
── どういった経緯で海外留学の案が出てきたのですか。
高橋さん:息子について考え始めると、自分の経験が思い出されました。学生時代に海外で短期のホームステイなどをしたことがあったんですが、それがすごく楽しかった記憶があって。それに、母子ともにビーチリゾートが大好きだったので、息子が小さい頃から2人で海外旅行をしていたのですが、息子は英語が全然話せないのに、現地でも友達を作るのが得意な子どもでした。新しい環境に行っても、きっとすぐに馴染める性格だと思っていたんです。
日本にいると学歴社会といいますか、成績がいい方がよくて、いわゆるいい学校とされるところに入るのが成功者というような雰囲気が残っているようにも感じていました。私が子どもだった時代から変わらない、そんな風潮に疑問を持っていたこともありましたし、果たして息子が幸せに過ごせるのかなと。息子の良いところを伸ばすには海外留学をしてみるのもいいのかなと思ったんです。
息子の友達が小学4年生から親子で留学をしていて、私もお母さんと仲がよかったので、「海外という選択肢もある」というのが頭の片隅に残っていたのも大きかったと思います。
── 海外留学をするにしても、親子での移住ではなく、寮などの選択肢もありますよね。
高橋さん:国内でもボーディングスクールが増えていて、なかでも海外の学校が展開するところは、国内にいながら海外の教育を受けられます。興味があったので調べたのですが、学費が高過ぎて厳しいと思いました。海外の全寮制の学校やホームステイでの単身留学ならば、親子2人で移住するより家賃や生活費が抑えられるので、安くなるとは思います。
ただ、私が息子と離れたくないという思いが強くありました。これまでずっと忙しく仕事をしていて、やりがいもあって楽しかったのですが、息子が高学年になり、だんだんと親離れが始まってきたのも感じていて。息子が巣立つ前に、ちゃんと向き合って過ごしたいと思うようになりました。