「息子との時間を作りたい」

── これまで仕事がかなり忙しかったそうですね。

 

高橋さん:私は雑誌編集の仕事をしているのですが、これまでは会社に出社して、編集部に朝から晩まで入り浸りという生活で、息子と一緒に過ごす時間は多くありませんでした。でもそれも、共働きの家庭が増えているのでうちだけではないし、当たり前だと思っていたんです。

 

息子は0歳から保育園に入りました。延長保育で夜まで預けることも多かったです。小さい頃は、「育児って、いったいいつまで続くんだろう」と思っていました。あまり夜も寝ない子で、抱っこして寝かしつけてもベッドに下ろすと起きてしまう。仕事も忙しくて常に睡眠不足でした。小学生になって学童に入ると、そこでも延長をして息子は夕食を食べてから帰宅するという生活で、毎日がただ、慌ただしく過ぎていきました。

 

でも、子どもがだんだん大きくなって手が離れてくると、ないものねだりではないですが、寂しさを感じるようになりました。これから先、高校生、大学生になったら私がいなくても何でもできるようになるだろうし、その前に仕事を少しセーブして息子と過ごす時間を作りたいと思うようになりました。でも、子供がもし「塾を辞めたい」と言わなければ、私の気持ちもこんなふうに変化していなかったかもしれません。

 

── 海外留学の話を息子さんにした際は、どんな反応でしたか。

 

高橋さん:「海外の学校に行ってみるのはどう?」と声をかけてみると、「楽しそうだし、行ってみてもいいよ」という反応でした。仲のよかった友達がすでに親子で留学していたのと、旅行で海外に行って楽しかった思い出があったからだと思います。

 

── 仕事はどう調整したのでしょうか。

 

高橋さん:ちょうどコロナ禍で、リモートで仕事ができるようになっていたのもタイミングとしてありました。自宅で仕事ができることが増えて、「もしかしたら日本にいなくても仕事を続けられるのでは」と思い始めました。そこから家族と話して、職場とも調整を行いました。英語圏を希望していたこともあって、行き先をカナダに決め、「まずはビザが出る1年間だけ行ってみよう」という気持ちで、半ば勢いで留学を決めました。

 

── 現地の学校では英語を話す必要があると思います。息子さんの語学の準備はしましたか。

 

高橋さん:留学を決めてから実際に渡航するまでは1年もなかったと思います。その間、私は仕事を続けていたので、準備だけに集中できるわけではありませんでした。息子は、小学校の中学年頃から1年間ほど英会話のレッスンに通っていました。

 

「海外旅行で、英語が話せたらもっと友達と遊べるから話せるようになりたい」と言っていたので通わせていたのですが、英検対策や宿題などの読み書きも増えてきて結局、途中で辞めてしまって。英語の準備としては、渡航の直前にオンラインで英会話を学んだだけだったので、準備万端とは言えない状態でした。

英語が理解できなくても「すぐに友達ができて」

── 息子さんは学校にすぐ馴染めましたか。

 

高橋さん:息子が通っている学校は日本人が少なく、クラスにも日本人はいませんでした。おそらく最初の頃は、ほとんど英語を理解できていなかったと思うのですが、子どもならではということもありますし、性格的にも誰とでもすぐ友達になれていました。学校に行きたくないとは一度も言ったことがありません。

 

カナダで野球をする息子さん
カナダで野球をする息子さん「頼もしい背中!」

こちらの学校では、新学期が始まってすぐはクラスメイトと馴染めるようにという理由のためか分かりませんが、外遊びの時間が多く設けられています。話を聞くと、「1日に4回も外で遊んだ」という時もあって。そういう雰囲気もよかったんだと思います。

 

日本から続けていた野球のつながりでも友達が増えていきました。カナダに来て1か月ほどで、野球チームのトライアウトに参加したときに、息子が大きなヒットを打ったんです。その瞬間に、「うまい子がいるぞ」と受け入れてもらった感じがありました。

 

そこから強いチームを紹介してもらうなど、野球の情報も得られるようになりました。遠征などもあって大変ではあるのですが、楽しく続けられています。うちのようにほぼ英語を離せない状態からスタートしても、言葉が要らなくても繋がれる共通の話題があれば、より馴染みやすいと思いました。スポーツに限らず、日本のアニメや漫画も人気なので、そういったものに詳しいのもいいと思います。

 

── 息子さんの学校がある日のスケジュールを教えてください。

 

高橋さん:ビザを延長して滞在期間を延ばし、息子は今、日本でいう中学2年生の学年にあたるグレード8なんですが、グレード8から12まではセカンダリースクールと言って、日本でいう中学と高校が一緒のような学校です。学校にはバスで通っていて、朝8時過ぎに家を出て、15時まで授業があります。放課後は、日本でも続けていた野球の練習をしています。

 

強化チームに入っているので、夏の間は放課後から夜まで野球の練習や試合があり、遠征もあるので結構ハードです。今日は学校のバレーボールクラブに参加していました。習い事としては公文にも通っていて、英語のリーディングを習っています。何もない日はあまりないくらい私より忙しい毎日ですが(笑)、放課後に予定がない日は近所で学校の友達を遊んでいることもあります。

 

ドジャースのスプリングトレーニングで
「息子さんも大ファン!」野球の遠征で、大谷選手が所属するドジャースのスプリングトレーニングを見にアリゾナへ行った際の1枚

── 息子さん、留学生活を満喫しているようですね。

 

高橋さん:自由な雰囲気がすごく気に入っているようです。息子からは、「もっと早いうちから来たかった、なんで連れてきてくれなかったの」と言われました。私から見ても、日本にいるときよりも子どもらしく、のびのびと過ごせているように思えます。

 

息子は、どちらかというと少しやんちゃなタイプで、日本にいたときは、外でうるさくして怒られることもありました。私も、人の目を気にしていたように思います。どこかで、おとなしくて大人びている子がいいとされる雰囲気に対して、息苦しさを感じていました。

 

こちらの学校の先生は、基本的に子どもを褒めてくれることが多いです。子どもの特性や性格を否定されることはなく、息子のことも「活発で明るくていいね」と肯定してくれています。いいところを伸ばしてくれるのも息子に合っていると思います。

 

── 息子さんは、日本で通っていた塾は辞めたいと言ったそうですが、カナダに来てから学習スタイルはどう変わりましたか。

 

高橋さん:カナダに来て最初の頃は、英語力の問題から学校の勉強に苦しんだので、息子と相談して書店で購入したテキストブックを一緒に取り組むようにしました。そのうちにひとりでするようになったのですが、「寝る前までの好きな時間にしていい」というのと、塾とは違って落ち着く家で勉強できるのが合っていたようで、次の学期の成績にも表れていました。また「英語がもっとできるようになりたい」という本人の意思も出てきたので、こちらでKUMONにも通い始めました。

 

カナダではホームラーニングをする家庭も多いようで、改めて教育にはいろんな方法があるなと実感しています。子どもがどんなタイプで、どうそれを伸ばしていけるかは、私が仕事の量をセーブして息子と過ごす時間が増えたことでようやく見えてきたように思います。

 

── 親の英語力が必要な場面は多いですか。

 

高橋さん:私の個人的な意見ですが、正直、そんなに必要ではないと思います。私は学生時代に英語を必死に学んでいましたが、仕事を始めてからはほぼ英語を使う機会がなく、多くを忘れてしまっていました。でも、英語が絶対に嫌ということでなければ、学校からもらってくるプリントも携帯で簡単に翻訳できるアプリもありますし、どうにかなります。ただ、英語が話せたらより多くの人と交流ができますし、得られる情報も多いので、話せるに越したことはないと思います。学校の先生との面談もありますが、子どもがすぐに話せるようになって通訳をしてくれる場合もあると思います。

 

自宅で日本の仕事をリモートでしているので、私はあまり日常的に英語を話す機会がないのですが、それでも日々の買い物や野球のつき添いなどでリスニング力は上がっていると感じます。英語の勉強も続けています。