幼児教室の講師を30年つとめる池江美由紀さん。娘で水泳の璃花子選手とは「反抗期にぶつかることもあった」という子育てのエピソードについてお話を伺いました。(全3回中の3回)

大切な子どもとの約束

── 長年、幼児教室の代表と講師をされていますが、お子さんや保護者の方と向き合っていくなかで感じることはありますか。

 

池江さん:お子さんが行動する前に、お母さんが注意をしてしまって、子どもが受け身になっていると感じますね。子どもが失敗しないように先回りしているように思います。

 

池江璃花子さんと母の美由紀さん

私はこちらから「お家でのお子さんはどうですか?」とお声がけするようにしていますが、先日、「ソファの背もたれ上の高いところに子どもが登ってしまって、危ないのに何回注意してもするんです」と言われたんです。

 

私はそれに対して「ちょっと落ちてみてもいいんじゃないかな」とお答えしました。もちろん、お母さんの手の届く範囲でケガをしないように細心の注意を払う必要がありますが、落ちるってこんなに怖くて危ないことなんだと気がつくと思うんです。

 

子どもにしてはいけないことを伝えたら、そのあとどうするかも大切です。「ここは高くて危ないから、もう登らないようにしようね」と親と約束することも大事だと思います。

 

── 子どもとお約束ですか。

 

池江さん:他の例でいいますと、例えばスーパーに行く前に、「今日はお菓子を買わないけど、それでも一緒に行く?」とか、「お菓子を買うのは1個だけだけど約束できる?」と約束します。実は親のほうがすぐに約束を破ってしまうんです。騒がれるからとか、恥ずかしいからという理由で、子どもに「約束したじゃない!」と言いながらも結局、買ってあげていますよね。

 

── 思い当たる節、あります。

 

池江さん:そういうときは「買わないって言ったでしょ」と言って相手にしないことです。それでも泣き喚いたら、今度は一緒にお買い物に行かずにお留守番させます。ひとりでお留守番するのが危ないならば「そろそろ反省したかな」という時間になるまで外で待っている。そこから家に入って、「お約束破ったからでしょ。今度行くときにはお約束守ろうね」と話しをします。

 

親が簡単に約束を破ると子どももそれに気づくので、子どもに約束の大切さを教えられなくなってしまいます。幼児教室では、親に主導権を持ってもらいたいという意味でも親が約束を破ったらいけないということを伝えています。親は自分自身が過去にどんなに約束を破ってきたとしても、親となった以上は約束を破る姿を子どもには見せないという覚悟をしてほしいです。

 

池江璃花子さん
小さいころから泳ぎだけではなく準備や片づけもすべて璃花子さんにさせていたそう

── 子どもに伝わるように叱るのも難しいです。

 

池江さん:叱るときは一本調子ではなく、抑揚をつけるほうが良いと思います。例えば人を傷つけてしまったり、道を飛び出したりしたとなったら親はすごい勢いで叱りますね。普段からそうする必要はありませんが、本当にダメなことに関しては、親も勢いをつけて叱ることも大事です。

 

親の怒りのボリュームでこれはしていけないことだと子どもは知るのですが、叱る時間は1分ほどにしていただきたいです。いつまでもダラダラ叱るのではなく、短時間で叱って、そのあとは叱った行為と本人とを分けてフォローします。子どもはあまり叱られるとお母さんに嫌われたんじゃないかと思ってしまうんです。自信をなくしてしまうし、長時間に及ぶとだんだん何を叱られていたのかもわからなくなってきます。

 

「あなたのことは大好きだけれど、したことが悪かったから叱ったのよ」と伝えます。愛情は自己肯定感にも繋がるのでしっかり伝えたうえで、フォローしてあげることが大切だと思っています。

 

母親というのは世界一優しい人で、世界一怖い人にもならなきゃならないと思います。そこのメリハリがつけられなくて悩んでいる方が多いと感じますね。

トップになるほど問われる人間性

── お子さんたちはそれぞれ、親に反抗することはなかったんですか。

 

池江さん:ありましたよ。中学生になったら3人とも反抗期があって、それぞれ荷物をまとめていました(笑)。

 

── それは、家を出るための…?

 

池江さん:そうです。子どもが成長したからといって親のスタンスは変えませんでした。親の言っていることは幼児であっても中学生であっても、ダメなことはダメというのは毅然として変えなかったので、当然ぶつかることもありました。

 

── ぶつかったときはどのように向き合ってきたのですか。

 

池江さん:中学生くらいになるとなんでも自分でできますし、自分の世界が大きくなってきます。璃花子が朝早く水泳会場に行く日があったのですが、朝送っていく際に生意気な態度をとったことがありました。

 

送っていってもらうことに対して感謝の気持ちがなかったので、私は「そんな態度を取るなら自分で行きなさい」と言って送っていきませんでした。

 

それまで早朝、ひとりでいくことはなかったのですが、なんとかひとりで行ったようです。やっぱり私も心配なので、出番のころに会場に見に行ったのですが、ちゃんと泳いでいたので大丈夫だったとわかりました。

 

池江璃花子さんと母の美由紀さん
浮き輪でプールに浮かぶ小さいころの璃花子さんと母の美由紀さん

── 態度もしっかり見て、ダメなものはダメと。

 

池江さん:トップになる選手ほど人間性が問われていくと思うんです。そのころすでに璃花子は良い成績を出していたのですが、「水泳でちょっと速いからってそんな態度を取るのはいけない」と言えるのは親しかいないんです。周りの方は娘に何か言うことはありませんので、その役割を私が買って出ないと、と思っていました。でも、もうその役割も今は卒業していますけどね。

 

── 璃花子さんが出る大会などはすべてチェックしているんですか。

 

池江さん:大会の中継も、短いニュースも全部録画して観ています。結果などに対して何か言うということはないです。でも節目には連絡するようにしています。向こうから連絡がなくても親が応援しているということは伝えたいと思いますね。

 

── 子育ての醍醐味はどんなところにあると思いますか。

 

池江さん:親も人として成長できるところです。私は小さいころから恵まれた環境だったわけではなく悔しい思いをしてきたこともあったのですが、子どもは親の育て方次第で変えられます。親が鷹の子育てを学んでいれば、自分がトンビに生まれたとしても鷹のような子を育てられると思います。

 

幼児教室の仕事を始めたばかりのときや子育てを始めたころは自分に自信もなかったのですが、30年続けてやってきて、人はいつからでも学べ、成長できるということがはっきり見えてきました。今はそれをお伝えして、皆さんにより良い子育てをしてもらいたいです。子どもが幸せになることで、親もますます幸せになると思います。

 

PROFILE 池江美由紀さん

池江美由紀さん

EQWELチャイルドアカデミー本八幡教室代表・講師。3人(長女、長男、次女)の母。次女が小学校に上がるころに離婚し、ひとり親で3人を育てる。現在も講師としてクラスを受けもちながら子育て相談や指導を行うほか、経験に基づいた講演活動も行う。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。主な著書に『あきらめない「強い心」をもつために(アスコム刊)

 

池江美由紀さんの著書

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/池江美由紀