3歳から始めた水泳で、幼少期から頭角を表していた池江璃花子選手。母の美由紀さんは、習い事を通じて人生で大切なことを学べると話します。お話を伺いました。(全3回中の1回)
子どもにもっと選択肢を
── 30年間、幼児教室の代表と講師をつとめているそうですが、それ以前はどんな仕事をされていましたか。
池江さん:就職活動で民間の会社を受けていたのですが、公務員試験に受かったので地方公務員として5年働きました。もちろん公務員の仕事は楽しいこともあったのですが、職業として生きがいを感じながら取り組めてはいませんでした。
結婚を機に辞めてからはパートタイムで働いたことはありましたが、その当時は人生の中で叶えたい夢や頑張ってやりたいことなどを持てずに生きてきたんです。
私自身は小さい頃から運動は得意でした。ただ、親が子どもの好きなことを一緒に見つけて支えてあげないと、子どもだけで好きなことを続ける環境を整えるのは難しいですよね。私の場合、陸上競技をしてみたいと思った時にはもう高校生になっていて、周りのアスリートの方とはすでに大きな差がありました。
がむしゃらに追いつこうとした結果ケガをしてしまい、その道を断たれてしまったんです。そのため運動の道も諦めてしまい、他にしたいこともないまま就職しました。
── 出産後、幼児教室の講師としてキャリアをスタートさせましたが、きっかけはなんでしたか。
池江さん:子どもが欲しいと思ってから、子育てについて調べました。海外の先生の本を読んだり講演に行ったり、幼児教育の勉強をしながら出産についても学んで、だんだんと「自分はこんな風に子どもを育てたい」という方向が見えてきたんです。ただ世の中の常識に流されて出産や子育てをするのではなく、自分で取捨選択をしていきたいと思うようになりました。
そして、子どもは親の育て方次第で、どのようにでもなれるということを知りました。私のようにやりがいのない人生ではなく、子どもにはもっと選択肢を持たせてあげたいと思ったんです。そこから幼児教育者を目指しました。
習い事の継続に必要な親のサポートは
── 夏休みが始まる時期ですが、仕事を続けながら子どもたちの学校が休みのときはどう過ごしていましたか。
池江さん:私は幼児教室の仕事があったので、子どもたちは学校のプールに行ったり、幼児教室に来て他の子どもたちと遊んだりしていました。
ただ、メリハリは大事にしていたので、家族と遊ぶときはめいっぱい遊んでいました。車で全国を回ったり、海外旅行に連れて行ったりしたこともありました。とにかく外で遊ぶことが好きな子どもたちだったので、自然のなかでよく遊ばせていました。璃花子には7つ上の姉と3つ上の兄がいるのですが、3人とも泳ぐことが好きなので川に行って泳いだり、テントでキャンプをしたりして過ごしました。
── お子さんは全員、小さい頃から水泳を習っていたそうですね。
池江さん:3人とも、小さい頃から水泳と私が講師をつとめる幼児教室に通っていました。璃花子は0歳から12歳まで幼児教室に通いました。習い事でいうと、上の子には一通りのことはさせていたんです。ピアノも3歳くらいから始めましたし、すぐに辞めてしまいましたが、小学校1年生のときにクラシックバレエも習いました。
やはり親が得意ではないことは、だんだん子どもが上達してくると親が練習につき合えないんですよね。長女が習ったクラシックバレエは指導方針が合わなかったため、1年で辞めました。そこで、近所にあって好きなだけ通えるスイミングクラブに通いました。あとを追うように長男、璃花子も水泳を始め、みるみる上達していきました。
私も小さい頃に水泳を習っていたのですが、最近また始めたんです。そしたらやっぱり水泳って楽しいなと思って、仲間と一緒に大会に出たりリレーを組んだりしています。
── 池江さんの著書、『あきらめない「強い心」をもつために』でも詳しく書かれていますが、子どもの興味はどのように見つけるのが良いでしょうか。
池江さん:子どもの好きなことがわからない場合は、親自身が好きだったこと、得意だったことをやらせてみると良いと思います。親も楽しい環境を作りやすいですからね。でも、決してそれを将来もずっと続けていかなくてもいいと思うんです。
やっぱり家庭環境というのはすごく大事だと思います。私が体を動かすことが好きだったので、みんなで外でかけっこをしたり、家にあるうんていをしたりして子どもたちは体を動かすことに慣れ親しんでいました。
親が興味のあることを子どもが引き継いでいることは多いと思います。それぞれの家庭のなかで、環境が作りやすい習い事で子どもの力を伸ばしてあげるのがいいのかなと思います。
── 璃花子さんは3歳から水泳を始めたそうですが、途中で辞めたいと言ったことはなかったんでしょうか。
池江さん:一度もないですね。とにかく水泳が大好きな子でした。大好きなことはどんなことがあっても続けるモチベーションに繋がっていると思うので、親御さんたちには子どもたちの大好きを見つけてほしいと思います。それに、やはり親がある程度、知識を持ってサポートしてくれないと、子どもはつらいことは諦めがちですよね。親と一緒に乗り越えていくことは大切だと思います。
璃花子は他の習い事はあまりしませんでした。ピアノ教室でリトミックをさせていたこともあったんですが、ピアノを始めるタイミングでどうするか聞いたら「辞める」と。やはり璃花子は何より水泳が好きでした。
習い事を続けるその過程で、人生で大切なことを学べると思います。努力を続けて、他人と協調すること。子ども同士だけではなく幅広い世代の方とも繋がります。それに、一度決めたら親子で目標を決めて諦めないで続けることが大切だと思います。
PROFILE 池江美由紀さん
EQWELチャイルドアカデミー本八幡教室代表・講師。3人(長女、長男、次女)の母。次女が小学校に上がるころに離婚し、ひとり親で3人を育てる。現在も講師としてクラスを受けもちながら子育て相談や指導を行うほか、経験に基づいた講演活動も行う。東京経営短期大学こども教育学科特別講師。主な著書に『あきらめない「強い心」をもつために』(アスコム刊)
取材・文/内橋明日香 写真提供/池江美由紀