ホスピタリティを“上手に受ける”には
超一流のもてなしは、「お姫様のような旅がしてみたいわ」と望んだ祖母を喜ばせます。「祖母姫」と著者が命名するにふさわしい優雅で堂々たる振る舞いでサービスを受ける祖母の姿は素敵で、感心させられるいっぽう「自分なら遠慮してしまうかも…」と考える人も少なくなさそう。椹野さんも最初は、臆してしまったと言います。
「留学経験で『言いたいことは言わないと』とわかっていても、一流ホテルの対応にビビってしまいました。でもこちらのワガママを叶えるのが彼らの仕事で、言わずに遠慮するのは、彼らを『信頼していない』ことになってしまう。遠慮や恐縮をせず、素直に喜んで、感謝の言葉を伝えるのがお互いにとっていい形です。祖母はそれができていたし、性格が『姫』のため基本『あがめよ!』というスタンスの人だから(笑)、彼らにとっては善きカスタマーだったでしょう」
日本人は「人に迷惑をかけてはいけない」と考えがち。人によってはホスピタリティを“受ける”のを苦手と感じてしまい、「祖母姫」のような善きお客様となるには、サービスを受ける“姿勢”を考える必要がありそうです。
「イギリスに限らず、海外ではサービスの質は場所や価格のランクで分かれていて、客自身がはっきり要求を伝えられるかなど、客のレベルを見て提供するサービスを出し分ける『割り切り』というシステムがあります。日本でも『上客にだけ出す品』があり、初対面でそれを出してもらうには、こちらが“真剣さ”を見せなきゃいけません。コート選びの場面で、祖母がそれをナチュラルにやっている姿を見て、深い感銘を受けましたね」

ファンと楽しむ「#スコ活」や脳内キャスティングにも注目が
Twitterで愛猫たちの様子を発信するほか、ファンの投稿をリツイートしたり、気さくにコメントを返したりすることもある椹野さん。「全部のコメントには目を通しきれないし、たまたま目についたものだけになってしまうのが申し訳ないのだけど…」と言いつつ、ファンとの交流を楽しんでいます。
「『祖母ロン』発売の直前は、カバーイラスト(ちぎり絵)の印象から本のお供にスコーンを調達しようとする人が多く、Twitter上では『#スコ活』が盛り上がりました。そういうツイートは『みんなで分かち合いたい』と感じて、リツイートやコメントをさせてもらっています。
以前からエッセイ読者のみなさんが登場人物たちを脳内再生する際、誰が演じているのか…を披露する『脳内キャスティング』というのもあって。祖母を草笛光子さんでイメージする声が多いとか、ティムをハリウッド俳優に、“その他大勢”のはずの伯父たちに大御所俳優がキャスティングされるなど(笑)、みなさんの自由な発想は、見ているだけでも楽しいです」

PROFILE 椹野道流さん
兵庫県在住。作家。多くの人気シリーズに加え、愛猫のフォトエッセイ『ちびすけmeetsおおきい猫さんたち』(三笠書房)も話題に。法医学が専門の医師でもあり、医療系専門学校で教壇に立っている。
取材・文・撮影/鍬田美穂 写真/PIXTA