『作ってあげたい彼ごはん』シリーズで一躍有名となった料理家のSHIORIさんは、同世代の女性を中心に人気を集め、数々のレシピ本を出版されています。結婚、出産を経て対面でのレッスンからオンラインに移行し、生徒数は1万人を超えました。20代の自分を「仕事人間だった」と振り返るSHIORIさんに現在の働き方についてお話を伺いました。

オンラインレッスンの生徒は10代から70代まで

── 週3回通われている息子さんの耳の療育を優先し、コロナ禍もあって2020年からレッスンをオンラインに移行しました。東京・代官山に構えていたアトリエを手放したときはどんなお気持ちでしたか。

 

SHIORIさん:思い出のある大切な場所で、もちろん寂しさはあったんですが、それをしないと先に進めないという状況でした。アトリエを手放そうと決断したあとはむしろ清々しい気持ちでした。やるべきことはやりきったという気持ちが自分のなかではあったので、いさぎよく次へ行けたんだと思います。

 

SHIORIさんと夫
自宅のキッチンで料理をするSHIORIさんとその様子を撮影をする旦那さん。ふたりの表情は真剣そのもの!

アトリエで築いた生徒さんとの絆は、場所を手放したからといって失われるのではなく、形を変えて継続していけるという深い繋がりも感じられていたので、未練を引きずっていたということはありませんでしたね。

 

── オンラインでの料理教室では、生徒さんにも変化があるそうですね。

 

SHIORIさん:多くは30代〜40代の方ですが、下は10代から上は70代まで、幅広い世代の方がレッスンを受けてくださっています。離れて暮らすお母さんと一緒に受けてくださる方もいらっしゃるんです。

 

娘さんを通じて私を知ってくださったり、あとはコロナ禍で始めたインスタライブで知ってくださったりした方も多いです。

 

アトリエには足を運べなかった方も、自分のペースで自分の好きな場所で受けられるというのがオンラインの魅力だと思います。小さいお子さんがいらっしゃる方は、子どもを預けて習い事をするのはなかなか難しいですよね。夜21時からレッスンをスタートしていますが、私が働きやすい時間と、世のお母さん方の家事やお子さんの寝かしつけの事情なども考慮してその時間に設定しています。

 

オンラインレッスンで使用するアイテムは全て手作り。わかりやすく伝えるために日々工夫しているそう

── 新刊『料理で幸せを届けてたどり着いた おいしい仕事術』はSHIORIさんの働き方に特化した内容となっていますが、レシピ本とは違う苦労はありましたか。

 

SHIORIさん:これまでにもエッセイを出したことはあったのですが、仕事目線で書いたのは初めてです。完成までに1年半かかったのですが、正直、苦しい時間ではありました。言葉を絞り出して繋ぎ出すのはレシピ本とは違う大変さがありましたが、自分と深く向き合うことができた貴重な経験でした。

仕事や生活がスローダウンして見えてきたもの

── 22歳で『作ってあげたい彼ごはん』を出版された当時を振り返って、今と働き方はどう変わりましたか。

 

SHIORIさん:家庭を持つ前はほぼ、仕事人間でした。あのままで来ていたら続かなかったと思いますし、苦しんでいたんじゃないかなと思いますね。当時はもっと尖っていたというか、ただ焦っていました。

 

病院でも息子を産む直前まで原稿チェックをしていたくらい、オーバーワークでした。ちょうど本を出すタイミングだったのもあって、産んでからも授乳しながら原稿を見て。振り返ってみてもタフだったなと思いますね。

 

コロナ禍になって、息子の療育も始まって。仕事や暮らし方がスローダウンしたおかげで、自分にとって大切なものがよりはっきりしました。でも当時の私がいてくれたから今があります。年齢を重ねることで考え方がこんなに変わるんですね。昔と同じ働き方を今もしていたら、ゆとりもなくてきっとしんどいことになっていたと思いますね。

 

SHIORIさんの息子さん
イチゴ狩りをする息子さん。たわわに実ったイチゴが赤くて美味しそう!

── SHIORIさんが一貫して好きな料理の仕事を続けられているのは、周りの方の存在も大きいそうですが、どうやって仲間との関係を築いているのですか。

 

SHIORIさん:自分に完璧を求めないことです。人は完璧じゃないのが当たり前で、できないことがあるからこそ助け合って支え合って生きていくんだと思うんです。できないことがあるのは自然なこと。

 

私はすごく得意・不得意がはっきりしているので、無意識のうちに自然と人に頼ってきました。「ここは頑張るから、これはお願い!」というのを昔からしていたように思います。苦手なことを頼むぶん、料理など得意なことにはエネルギーがありあまるくらいがんばれちゃうので、自分ができることで挽回します。

 

そこで気づいたのは、もしかしたら人に頼ることで、相手にとってのやりがいを生み出すことになるかもしれないということ。人を助けることは良いことだとみなさん認知していると思いますが、素直に「助けて」と相手に頼ることも、いい循環に繋がるなと。

 

SHIORIさん

それが相手が得意なことだったらなおさら役に立ちたいと思ってもらえる可能性が高いです。

 

人に頼ることができたら働きやすくもなるし、生きやすくもなると思います。苦手を克服する姿勢も大事だと思いますが、本当に大変なときは、そんなに無理して苦手なことに向き合わなくてもいいのかなって。

 

── 次の目標はありますか。

 

SHIORIさん:今は目の前のことに一生懸命で、自分ができることを精一杯頑張ろうという時期です。ここから新たに何かを、というのは今のところないですね。でも一生懸命しているとだんだん次が見えてくるんです。今はその段階ではなく、まだまだ渦中の段階だと思っています。

 

PROFILE SHIORIさん

SHIORIさん

1984年生まれ。22歳でレシピ本『作ってあげたい彼ごはん』を出版。同シリーズがベストセラーとなり著書累計は417万部を超える。結婚、出産を経て現在1万人の生徒数を誇るオンライン料理教室「L’ atelier de SHIORI Online」を主宰。新刊『料理で幸せを届けてたどり着いた おいしい仕事術』(小学館)が発売中。

 

取材・文/内橋明日香 撮影/廣江雅美、Daiki Nakagawa 写真提供/SHIORI