家族の会話の聞き取りが急務

── 英語は学校で学ぶ予定ですか。

 

風見さん:語学学校に行くつもりです。今から途中入学でも入れなくはないのですが、新しい学期は秋から始まるので、途中から還暦のおじさんが入ってきて「すいませ〜ん、わかりませ〜ん」というのもなと(笑)。入学する前に、生活習慣や暮らしのリズムを身につけて、年齢のこともあるので焦らずにできたらなと思っています。

 

風見しんごさん
愛犬のムーとロサンゼルスのビーチ沿いをランニングする風見さん。青い空と海をバックに足取りも軽やか!

── 何年くらい住むなど、ご予定はあるのでしょうか。

 

風見さん:ある程度英語ができるようになるまではと思っていますが、4〜5年はかかりますかね。いや、それだけ経ってもできるようになっていないかもしれませんね。妻が6年前に渡米したのですが、今ではほとんどの日常会話はできるようになっています。

 

妻は私より若いのですが、それでも学校で学んで4年くらいかかったそうで。妻いわく、クラスメイトは若い子がほとんどだと。これからアメリカの大学に行きたいとか、専門に学びたいことがあるから、そのために語学を学んでいる子が多いみたいで。「将来こうなりたい」という夢を持っている子たちにたくさん出会えるよと。

 

交通事故で亡くなった長女が生きていたら、ちょうど同じくらいの歳の子がたくさんいて、「もし生きていたらこんな感じで、友達と学校で学んでいたのかな」と思うと、それも楽しいよと言っていました。

 

── 渡米についてはいつ頃から決めていたのでしょうか。

 

風見さん:マネージャーには数年前から渡米する話はしていたんです。でもコロナ禍もあって、予定変更をして。本当はもっとコロナが収束してからのほうがいいのかなとも思ったんですが、還暦という節目を迎えたので、これもいいタイミングかなと。

 

すでに現地で生活していた妻と次女とはコロナ禍で1年8か月くらい会えていなかったんです。電話で話してはいましたが、実際会うのとは違いますね。空港に次女が迎えに来てくれたとき、しおらしく涙を流して「久しぶり!」と声をかけてくれて。

 

でも僕は次女の姿を見て、びっくりしてしまって。涙どころではありませんでした。「いつこんなに大きくなった!?」と。10代の2年間というのはこんなに変わるんですね。背もぐんと高くなっていました。

 

コロナ禍前はまだ子どもらしさがあって「なんだコンニャロ〜!」みたいにできたんですが、今は自分の娘ながら「どこのお嬢さんでしょう?」という感じです。

 

風見しんごさん
風見さんが生活するロサンゼルスの街並み。ヤシの木や青い海が日常の光景

── 再び家族一緒に生活を送れるようになって良かったですね。

 

風見さん:今行かなかったら、もう子どもの成長を見られなくなってしまうし、きっと僕ではなく彼氏とか旦那さんになる方とかが娘の成長を見守っていくだろうなと思ったら、「もう今しかない!」と改めて思いましたね(笑)。

 

娘と妻は主に英語で話すのですが、ふたりはボーイフレンドとか友達関係の話になると急に流暢になって早くなるんです。

 

── それは、英語の聞き取りが急務ですね!

 

風見さん:そうなんです。家庭内での英語習得が急がれます(笑)。聞き取りでいうと、アメリカは移民の方も多いですし、若い人の言葉も同じ英語とは思えないほど難しいです。

 

若者は日本と一緒で言葉をすごく縮めるんですが、もう、何言っているかまったくわかりません。でも私は、いつまでに受験しなきゃとか特にそういうのもないので、焦らずゆっくり学んでいこうかなと。少しでも日常会話ができるようになったらいいですね。

 

── 英語が話せるようになった暁にはどうされるんでしょう。

 

風見さん:妻は「近所の焼き鳥店で、求人募集してたよ」って。もしかしたら4年後、どこかの日本食料理店で働いているかもしれません。

 

── まさかの回答でした(笑)。

 

風見さん:こちらの和食の店に行くと「なんでお寿司にタバスコをかけたり、ハバネロが入っていたりするんだ?」とか思っちゃいます。でも日本食のお店はたくさんあって人気なので、和食が広く認知されたというのは嬉しいことなんですが。

 

たとえば横で、天丼を食べている途中に箸を刺しっぱなしにしているのを見ると、すかさず箸を取りたくなっちゃう衝動もあります。居酒屋に行っても「これは料理の基本が違う」っていちいち思ってしまって。もう、こんなに思うなら自分でしたらいいのかなって。

 

── てっきりハリウッドデビューを目指しているのかと思っていました!

 

風見さん:皆さんからそう言われるんですが、そんなに甘くないですし、アメリカで役者を、とは考えていないです。いや、オファーがあったらもちろん別ですよ(笑)。でもその前にすべきことがたくさんあります。

 

私はこれまで、日本の感覚のなかで仕事をしてきたので、きっとアメリカではセリフの捉え方なども違うと思うんです。外国で育った方でハリウッドスターを目指すというのは、本当にすごく努力されているんだろうなと思います。英語が話せるようになったからといってすぐ仕事ができるとは思っていないですね。

 

いわゆるハリウッド映画ではないのですが、こちらでは将来、映画の世界を目指す学生たちが自主制作しているような映画もたくさんあるんです。街のいろんなところで撮影しているのですが、「どうしてもアジア人のおじいちゃん役を誰かしてほしい」と要望があれば受けますよ。ギャラなしでも喜んで!

 

次女が「うちの父、日本で役者してたって友達に言っておくね」と言ってました。今のところオファーは来ていないのですが(笑)。まずはひととおり生活ができるようにしたいですね。

 

PROFILE 風見しんごさん

風見しんごさん

1962年広島県生まれ。18歳で「欽ちゃんの週刊欽曜日」にてデビュー。歌手、タレント、俳優として幅広く活動。「噂の!東京マガジン」では25年間レギュラーを務める。還暦を機に米ロサンゼルスに移住。

取材・文/内橋明日香 写真提供/風見しんご