住吉美紀さんはNHKのアナウンサー時代、2007年から4年間、茂木健一郎さんとともに「プロフェッショナル仕事の流儀」のキャスターを務めました。深堀したインタビューは話題を呼び、番組は住吉さんの代表的なお仕事に。もともと「海外と日本の懸け橋になりたい」と海外中継を中心に活躍してきた住吉さんが、今ご自身の仕事の柱であるインタビューに目覚めるまでのお話を伺いました。(全5回中の2回)

 

住吉美紀さん

放送は10分、収録は4時間「インタビューの鍛錬の場に」

── 住吉さんと言えば、「プロフェッショナル仕事の流儀」でのキャスターが印象的です。

 

住吉美紀さん
ナスカの地上絵を見下ろしながらリポートする住吉さん。語学が堪能で海外の仕事が多かったそう(写真提供/住吉さん)

住吉さん:「プロフェッショナル仕事の流儀」は2006年からスタートしました。実はそれまでは、1年の3分の1ほどを海外にいた年もあるくらい、局内で「海外中継、海外ロケの住吉」みたいに言われてた時期があったんです。

 

でも、2005年に「プロフェッショナル」のパイロット版番組を担当させていただいて、それがすごくおもしろかったんです。上司から「今度プロフェッショナルはレギュラー番組になりそうなんだ。住吉さんは他のレギュラーもあるし、担当になるかわからないけど、一応伝えておくね」って言われて。

 

私は「わかりました」と一度アナウンス室から出たんです。でも、階段を一段分降りたところで「待てよ」と。私、今なにも自分の意志を伝えずに、「『プロフェッショナル』は違う人が担当になりました」となったら、後悔しないだろうか、と。

 

それで、急いでもう一度アナウンス室に戻ったら、ちょうどその上司がアナウンス室から出るところだったんです。呼び止めて「すみません!さっきのお話なんですけど、私の希望としては、できれば『プロフェッショナル』を担当させていただきたいです」と言ったんです。

 

── 直談判したんですね。

 

住吉さん:上司は「わかりました。でも、あなたの意見だけで決まらないから、必ずとは言えないけど、あなたの希望はあげておきます」と言ってくださって。

 

それで私の希望がどこまで通ったのかわかりませんが、蓋を開けてみたら、レギュラーの担当をさせてもらえることになって。結果、今の私の大きな柱となっているインタビューという分野の、プロとしての礎をつくってくれた番組になりました。

 

放送されるのは10分ぐらいでしたが、毎回4時間ぐらいインタビューしました。それもNHKじゃないとできないことだったと思います。時間を度外視して、とにかく良いものを撮るぞ、というプロデューサーのこだわりのもと、徹底的にインタビューをする。放送人として、インタビュースキルの鍛錬になりました。

 

住吉美紀さん
「プロフェッショナル仕事の流儀」での経験が現在の仕事の礎になったと語る住吉さん

毎週が“人生道場”だった

── それだけ海外に嗜好があったのに、パイロット版を担当したのを機に、「プロフェッショナル」のほうに心がグッと動いたのは、なぜだったのでしょうか。

 

住吉さん:なんでしょうね…。でも、ちょうど自分もキャリアについて「このままで良いのかな」「この先なにをしたいのかな」と考えていたタイミングだったんです。

 

30代に入って、ある程度いろいろな経験も積んで、テレビ制作やアナウンサーの仕事というものがわかってきたなかで「自分は今後どんな貢献ができるかな」と考えている時期で。

 

初回が星野リゾートの星野佳路さんで、すごく話がおもしろかったんですよ。仕事人としてむちゃくちゃ勉強になったし、自分が人生を歩むうえで疑問に思うことも伺えました。「私は人の話を聞くことが元々好きだったんだな」という目覚めもありました。

 

本当に毎週、“人生道場”なわけですよ。ものすごい人たちに、仕事や生き方についてがっつり聞くので。4年ちょっと、本当に豊かな時間を過ごさせていただきました。

 

住吉美紀さん

── プロフェッショナルでは、4年間で143人もの方にインタビューされたそうですね。なかには気難しい方もいらっしゃったのでは。どのように懐に入ったのでしょうか。

 

住吉さん:プロフェッショナルの場合はインタビューの本番前に、優秀なNHKのディレクターたちが魂込めて40日以上必ず取材相手に張りついていました。だから、番組との信頼関係性ができているんですね。そのうえで、インタビューすることができた。

 

もちろんお話の癖は、プロフェッショナルに限らず、皆さんあります。早口の方、ゆっくりの方、考えてから話す方、しゃべりながら考える方。的確に言葉で表現するのが得意な方、思いはあるけど言葉に今までしてこなかった方など、いろいろといらっしゃいました。

 

その人に合った方法で粘って聞く、というのが私たちの仕事なので、いろいろな方法を実地で試せたのが、自分にとっては経験になったと思っています。

 

PROFILE 住吉美紀さん

1973年生まれ。小学生時代をシアトルで、高校時代をバンクーバーで過ごす。1996年NHK入局。「プロフェッショナル仕事の流儀」「スタジオパークからこんにちは」などを担当。2011年からフリー。2012年からラジオ番組「BlueOcean」のパーソナリティを務める。2022年からSpotifyでポッドキャスト「その後のプロフェッショナル仕事の流儀」がスタート。

 

取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美