「嘘はダメ」へのカウンターパンチを与えてしまった
── 今のほうが堂々と仕事のことを話せるようになったとか、関係に変化はありましたか?
山田さん:多少それはありますね。嘘をついてない、という。この10年間、僕自身は娘に「正体を伏せてた」というニュアンスなんですけど、娘としては「嘘をつかれていた」という感じなんです。
だから、娘に対して「今なんか隠したでしょ?まったく嘘ついて」と怒らなアカンとき、「パパも嘘ついてたやん」って言われる。絶対に勝てないカウンターパンチを子どもに与えてしまったなというのは良くなかったなと思ってますね。
── 下の娘さんにもなし崩し的にバレた感じなんですか?
山田さん:下の子はまだ3歳ちょっとなので、どれぐらいの認識なのかわかりませんけど。とりあえず現時点では次女に対してはノーガードですね。
ときどき、次女が家にいる昼間にテレビに出演してても、妻も普通にテレビつけてたりとかして。次女は「帽子のパパだ~」みたいに言ったりしてるみたいです。
娘からの手紙「パパが髭男爵でうれしかった」
── 上の娘さんは小4とのこと。早い子では反抗期に入る子もいますが、関係性はいかがですか?
山田さん:まだ嫌われてはないとは思います(笑)。
以前「しゃべくり007」に出させてもらって、一発屋の話とかをワーッとしてて。最後のほうにサプライズで、上田(晋也)さんから「実は今日、娘さんから手紙をいただいてる」って言われて。
ほんまに知らなかったので「え、マジすか!?」って、驚いたんです。
芸人だとカミングアウトしたことに対して、娘が本音ではどう思ってるのか、ずっとわからないと思っていたんです。「恥ずかしない?」とか聞いても、表面上は「平気だよ」と言うけど、深いところではわからないな、と。
この手紙が、なかなか泣かせる内容で。「パパが『髭男爵』というのは、ちょっと前から知ってたよ。パパが『髭男爵』で嬉しかった」みたいな。
なかなか親を泣かせるフレーズなんですけど「いつもやさしくしてくれて、勉強教えてくれてありがとう」と、つらつらと書いてあって。「あー、良かった」って思ったんです。
── いいお話ですね。
山田さん:で、放送から何日かして、奥さんが「しゃべくり007」の反響をネットで調べてて、娘に見せたらしいんですよ。娘が手紙と一緒に、僕の絵を描いてくれてて、その絵がめちゃめちゃ褒められてるらしくて。
「小4なのに絵がめちゃめちゃうまいやん、って言われてるよ」って、奥さんが娘に言ったら、ニマーっとして(笑)。「ちょっと調子乗りのところあるな」と思いましたね。
──(笑)。
山田さん:でも僕、今でもそうなんですけど、子どものころから全然趣味とかないんですよ。なにかにハマるとかいっさいなくて。
子どものころのモチベーションといえば、大人に褒められること。親や先生に褒められたらうれしい。そういうモチベーションで生きてきた人間なんですよ。
だから、娘が褒められてニマーっとした表情を見て「俺のDNAを濃く継いでないかな」と心配になりました。
ただ、娘は自分と違って、絵を描いたり、いろいろ好きなことがあるみたいで、それは良かったなと思ってるんです。いつも教科書やらノートやら、いろんなところに落書きをしてるんですよ。イラストを描いたり。
「教科書にそんなの書いたらダメでしょ」とは思うんですけど。ただ、そういう衝動的に絵を描けるって、ええなあと思ってるんです。
それは、自分の内から出てるものやから。外部の評価に、自分の価値観を預けないということだと思うんですよね。絶対に怒られるのに、わけのわからん絵を描いて、何回も注意される。その感じが悪くないなと思ってます。
何かに夢中になったり、ハマったりできる。僕にはないところなんですよね。
「主婦業はめちゃめちゃしんどい」
── 育児と仕事の両立で、大変だなと思ったことはありますか?
山田さん:うーん。でも僕、そんなにめちゃくちゃ育児をやっている「子育てパパ」みたいな認識じゃないんですよね。
── そうですか?エッセイを読むと、おむつ替えや送り迎えなど、しっかり育児に向き合っている印象です。
山田さん:いや、そんなにやってません。謙遜ではなくて、奥さんのほうがむちゃくちゃやってるし、大変だと思います。多少掃除とか、おむつ替える程度のことはやってますけど、やっぱりしんどいですよね、主婦(夫)業は。
工業、農業、主婦(夫)業って言っていいぐらい。基幹産業ぐらいに言ってええんちゃうかなと思う。何年も前も話ですけど、「長女のおむつ替えやってみる?」って言われて、初めておむつ替えとかしたときとか、ほんま汗だくになって。
おむつを替える筋肉を使ったことがないから。ちょっと中腰になったりとか。ものすごい気を使いながら、足をこんなんして…。ギャザーを内側にこう、シューっとして。
使ったことのない筋肉と頭を使うから汗だくになって、めちゃめちゃしんどいやん、というね。すぐうんこするし。
── そうですね、本当に。
山田さん:「さっき替えたやん」っていうね。分担とまでは言わずともやってきたつもりではありますけど。ただ、今や死語なのかもしれませんが、自分のことを「イクメン」とは思わないですね。それは奥さんのほうが、むちゃくちゃやってると思いますよ。
PROFILE 山田ルイ53世さん
1975年生まれ。六甲学院中学に進学後、6年間のひきこもり生活に。大検(当時)を経て愛媛大学に入学後、中退。99年に「髭男爵」を結成。2008年「貴族のお漫才」でブレイク。エッセイやラジオなど多方面で活躍。
取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美