3歳の頃からフィギュアスケートを始めた中野友加里さん。スケートを始めた当時はマイナースポーツだったはずが、次第に有名選手が続々と生まれ、注目度も変わっていったとか。荒川静香さんや安藤美姫さん、浅田真央さん他、華やかな選手と共に戦うなかで思っていたことは──

練習スペースの確保から

── 中野さんが現役のフィギュアスケート選手だったころは、荒川静香さんや安藤美姫さん、浅田真央さんほか、そうそうたるメンバーと共に活躍されていたかと思います。

 

中野さん:あの時代に、みんなと一緒に切磋琢磨しながらスケートリンクに立てたのは、すごく幸せなスケート人生だったなと思います。

 

── 中野さんが3歳でスケートを始めたころと今とでは、フィギュアスケートを取り巻く環境もまた違うのでしょうか?

 

中野さん:ちょうど私が始めたころは、伊藤みどりさんがいて。伊藤さんが「スケートの神様」みたいな感じで活躍されていました。

 

ただ、フィギュアスケート自体はまだまだマイナーなスポーツで、地方大会だと観客も父兄しかいないような感じでしたね。

 

母が作った衣装を着て、両手を広げてポーズ決める、中野さん8歳の貴重な一枚

── 今でこそ、大人気ですが。

 

中野さん:当時は、スケートリンクの環境もあまりよくない状況だったんです。

 

まず、自分が滑るスペースを確保しないといけない。私が通っていたスケートリンクは、フィギュアスケート以外に、一般のスケート教室もやっていたし、アイスホッケーの選手や、ときにはスピードスケートの選手もいて、いろいろな人が入り混じっているなかで、ぶつからないように注意しながら滑っていました。

 

しかも、たくさんの人たちが滑っているので、いたるところに氷の削りカスがあるような状態で。どうにかスペースを見つけて練習していました。

 

── なかなかハードな環境ですね。

 

中野さん:そんななかで、多くのスケーターをはじめ美姫ちゃんも真央ちゃんも育ってきて。ちょうどマイナースポーツからメジャースポーツにフィギュアスケートが駆け上がっていく時期だったと思います。

みんながヒーローを求めていくなかで

子どもの頃は、フィギュアスケートはマイナーだったと語る中野さん

── スケートの人気が上がっていくなかで、どんなことを感じていましたか?

 

中野さん:私がフィギュアスケートを引退して、フジテレビに入った後にも言われたんですけど。「視聴者は、ヒーローを求めている」って。選手が大会で勝つ試合を見たい。ヒーローインタビューを見たい。メダルが掛かる試合が見たいって。

 

髙橋大輔くんが出れば、たくさんの歓声が沸いたし、真央ちゃんも次から次へタイトルをとるし。そんな姿を、みんなが求めていたんだと思います。

 

── 個性も人気もある選手がたくさんいるなかで、中野さんはどのような心境で挑んでいましたか?

 

中野さん:私は伏兵だと思っていたので(笑)。そんなに注目されるなんて思ってなかったですけど、テレビで試合を見てもらえるようになると、自分でも、ひとつくらい何か得意なものがあればいいなとは思いました。結果的に、トリプルアクセルやドーナツスピンを褒めてもらえたのは嬉しかったですね。

 

── 本当に素晴らしかったです…!大きな大会にたくさん出場されていましたが、大会では達成感とプレッシャー、どちらをより感じていましたか?

 

中野さん:私の場合はプレッシャーでした。自分の出番が終わって「やれた!」って言うより、「あぁ、やっと終わった…」っていう。毎回プレッシャーを感じながら、それでも長く続けられたのは、不思議なことに達成感なんですけど、プレッシャーのほうが勝っていました。スケートリンクに立って観客の目線を独り占めできる。結果が良くても悪くても、大きな拍手を送ってくれるあの瞬間ですね。応援してくれる方々がいたから、続けてこられました。

もっともっと、できたはずなのに…

2008年の全日本選手権のときの様子

── バンクーバー五輪出場選考である、2009年の全日本選手権では、わずか0.17点差でオリンピックの切符を逃す結果になりました。

 

中野さん:自分のミスなのでね。時間が忘れさせてくれるってみんなが言ってくれたんですけど、忘れられないですね。時間が解決するものではなかったし、今でも後悔しています。

 

なんだろう…結婚したら変わるかと思ったら変わらない。子どもが生まれたら、と思ったけど、変わらない。多分一生しこりとして、自分のなかに残るんじゃないかなと思います。

 

── 最善の準備をされても。

 

中野さん:やっぱり取りこぼしといえば、取りこぼし。もっともっとできたのに。あと1回転回っていたら、もうちょっと丁寧にポジションが取れていたら…とか。今でも思います。普段は態度も大きいですけど(笑)、肝心な場所で小心者の部分が出てしまった。焦りから、気持ちが引いてしまったんだと思います。緊張すると、いつもそうなんです。

 

── 今は、滑ることはありますか?

 

中野さん:今はまったくないです。子どもをスケート場に連れて行ったり、遊びでやるくらい。とてもお見せできる状態ではないです。髙橋大輔選手は、すごいと思います。私はとてもじゃないけど戻れない。戻りたいと思う精神力はすごいと思います。

 

たしかにあの達成感はすごいですし、あそこでしか味わえないものなんですけど。今は、みんなの応援をしながら、審判をしつつスケートに関われたらいいなと思っています。

 

PROFILE 中野友加里さん

1985年生まれ。愛知県出身。3歳でフィギュアスケートと出会い、24歳で現役引退。2010年に株式会社フジテレビジョンに入社。2015年に結婚、現在は二児の母。2019年3月でフジテレビを退社し、メディアでスポーツコメンテーター、講演活動等を行っている。

 

取材・文/松永怜 撮影/阿部章仁