映画の撮影は困難がつきもの

── 約5年間の任期を経て、神戸フィルムオフィスに副代表として移ります。

 

松下さん:
広報官時代に前任の代表から誘われ、任期がもうすぐ終わるタイミングで移りました。

 

── どのようなお仕事をされているのでしょうか。

 

松下さん:
映画やドラマの撮影場所のロケハンから関係各所へのあいさつ回り、場所を使用するための事務仕事を行うほか、実際に撮影が始まると撮影現場にも顔を出します。

 

── どんな作品が撮影されているのでしょうか。

 

松下さん:
2022年に公開されたものだけでも「耳をすませば」「キングダム」など、神戸を舞台としたものだけではなく、いろいろな物語の舞台となっています。神戸には都会もあれば下町もある。海も山もあります。神戸に来るだけで、大体の風景は撮れます。

 

映画監督の山崎貴さんは、「何でもない街角でも、神戸で撮るとちょっといい感じに映る」と言ってくれました。神戸は坂が多い街です。映画を撮るとき、高低差のあるところで取ると映像に奥行きが出るんですね。なので映像をつくる人たちから選ばれやすいんですよ。

 

神戸市でのロケ撮影の風景

── フィルムオフィスでの仕事にはどんな苦労があるのでしょうか。

 

松下さん:
実は、めちゃくちゃ大変なんですよ。みんな、「華やかな仕事ですね」と言ってくれますが、とんでもない。朝早かったり夜通しの撮影だったり。この前も廃墟や埃を被った倉庫で撮影していました。

 

洞窟で撮影したときにはコウモリが顔めがけて飛んでくるので、「顔だけはやめて」とカバンで顔を隠しました。ご飯を食べる場所がなくて、トイレを積んだトラックの助手席でお弁当を食べたこともあります。そんなことが日常茶飯事の世界です。

 

でもやっぱり、この仕事も「天職」だと思うんですよね。それぞれのステージで自分のやりたいことを見つけ、それを誰かが支えてくれました。行き当たりばったりの人生ですが、何とかなるものだなと感じています。

 

PROFILE 松下麻理さん

1962年奈良市生まれ。神戸市内3つのホテルでの勤務を経て、2010年7月に神戸市が初めて公募した広報専門官に就任。2013年12月より2015年3月までは広報官として、神戸市の広報を担う。2015年4月からは神戸フィルムオフィスにて、映像作品の誘致やロケ支援を通じて神戸の魅力発信を行っている。2022年にはアーティストの芸術活動の拠点施設となる「アーティストインレジデンス」の運営を開始。

 

取材・文/松田小牧 写真提供/松下麻理