この時代だからこそ情報よりも教養を

──戸田さんがご自身の好きなことを見つけられたのはなぜですか。

 

戸田さん:
心が動かされる、本当に良い20世紀の映画を見て育って、それを仕事にできたのは時代のおかげです。21世紀の映画を見ていたらきっと違っていたわね。

 

昔は映画を見て、涙を流し、たくさん笑って。見終わった後に人間についていろいろなことを考えさせられました。最近はそういう映画が少ないのが実に残念です。

 

そういう意味では本と昔の映画はよく似ています。映画は映像があるから、多くを与えてもらえるけれど、本は活字しかない。自分で頭を使って読んで理解をするんです。せっかく頭脳があるなら、スマホばかりじゃなく考えなきゃダメよ。確かに便利だけれど、何も考えなくなってしまったら人は退化するだけです。

大好きな映画について語る戸田さん

皆さんが追いかけている情報というものは、5年も経てば古くなって、何の役にも立たない。一方、教養というものはいくら貯めても捨てるどころか身につく。本を読んで、それから得た教養はどんどん自分を豊かにし、決して古くなりません。

 

情報だらけで、それを追いかけているだけでは、「あなたの頭脳は一体何をしているのか」と言いたい。これだけ映画が好きで今も仕事にしているけれど、みなさんには映画だけでなく、心の糧となる本も読んでいただきたいですね。

 

PROFILE 戸田奈津子さん

1936年生まれ。東京都出身。映画字幕翻訳者・通訳。『地獄の黙示録』で本格的に字幕翻訳者としてデビュー。数多くの映画作品を担当し、ハリウッドスターとの親交も厚い。

 

取材・文/内橋明日香 撮影/北原千恵美 写真提供/戸田奈津子