30歳を過ぎてから始めた英会話

── これまで通訳、翻訳と二足のわらじを履きながらご活躍されていました。

 

戸田さん:
生活のなかで仕事が99パーセントだったと言ってもいいわ。他に何もなかった。結婚もしなかったし、家事は生前、母親がしてくれていました。今は自分の食事作りや掃除くらいはするけれど、いわゆる主婦がするようなことは落第です。

 

それに週に1本、映画の字幕をしていたら、他のことは何できませんよ。でも仕事が楽しかったのが何よりでした。

 

インタビューに笑顔で応じる戸田さん

字幕はしたかった仕事ですが、実は通訳は望みもしなかった仕事。まさか通訳者になるとは夢にも思いませんでした。

 

第一、話すことが苦手だし、30歳を過ぎるまでは英語を話したこともなかったのですよ。字幕をつけるには、英語を話す必要はなく、私の時代は活字だけで英語を学んでいたのですから。

 

でもなかなか字幕への道が難しくて、20年間行き着けなかった。その間も食べていかなきゃならなかったので、アルバイトなどをして繋いでいました。字幕の仕事がしたくて映画会社に繋がりが欲しいと思っていたときに、通訳をしないかと言われたんです。

 

今と違って、他に話せる人がいない時代だったの。でも周囲は、私が字幕をやりたいと言っていたから英語が話せると勝手に思ったらしい。字幕の仕事が欲しいがゆえに、やれと言われていやいやしましたよ。もう、恥をかきっぱなし。英語を話せない人が記者会見で通訳をするなんて、今だったら信じられない乱暴な話です。

 

── そこから通訳のキャリアがスタートしたのですね。

 

戸田さん:
通訳の仕事がだんだんとひとり歩きを始めてしまった。映画の俳優さんが来日すると、その度に私しかいないからどんどん仕事が来てしまって。でも会話というのは、練習すれば誰でも少しは上手くなります。私は今でも下手ですけど、現場で何とか意思が通じるようになったんです。

 

今ならバイリンガルの人がたくさんいますから、絶対にオファーは来なかったでしょうね。運が良かったのか悪かったのか…。時代のタイミングです。