長年、翻訳家として有名映画作品の字幕を手がける一方、通訳者としてハリウッド俳優からの信頼も厚い戸田奈津子さん。40年以上に渡って続けた通訳の仕事を今夏で引退することを発表し、話題になりました。戸田さんにこれまでの仕事の歩みを伺いました。

 

「今が引きどきだと…」

── 先日、通訳者としての仕事を引退されましたが、その理由について教えてください。

 

戸田さん:
みなさんすごく私の“引退”について聞きますけど、そんなにたいしたことじゃないです。86歳の通訳って他に見たことありますか?スポーツ選手を見てよ、みんな20代で引退するでしょ。

 

年をとってくるといろいろと昔のようにはいかなくなります。通訳は1秒たりとも間を開けずに切り返さなくてはなりません。すごく集中力を使う仕事なので、ギブアップしたんです。

 

相手が次に何を話すかもわからないし、癖のある話し方をする方もいますから、通訳の仕事は非常に緊張します。この年になると疲れますよ。

 

もし私がポカをしてしまったら、たとえばトムのように一生懸命している人には申し訳ない。足を引っ張りたくないと思ったので今が引きどきだと思って。十分お勤めは果たしたと思います。

 

にこやかに観客に手を振るハリウッド俳優のトム・クルーズさん(写真右)と、通訳を務める戸田さん(写真左)。

── 長年通訳を担当されてきたトム・クルーズさんの映画の公開イベントが通訳者として最後の仕事となりました。

 

戸田さん:
コロナ禍で2年ほどイベントが延期になっていました。その間ブランクもあって、自信がなくなったのでイベントの前にトムに連絡したんです。これまで特に年齢のことを言っていなかったから知らなかったと思うけど、「私はもうこの歳で、無理だから」と言ったらびっくりしていました。

 

「続けてよ」とは言われましたけど、きちんと説明したらよくわかってくれて、それで降りたんです。トムのお母さんは私より年下ですよ。

 

肩を寄せ合い、笑顔のトム・クルーズさん(写真右)と戸田さん(写真左)