“ミーハー”だからできた仕事

── もともと通訳は望んでいた仕事ではなかったということですが、長年続けてこられたのはなぜでしょうか。

 

戸田さん:
私は根っからの映画好きで、いわゆるミーハーです。そんな人が本物のスターに会えるなんてあり得ない。でもミーハーとしてはロバート・レッドフォードが来ると言ったらやっぱり会いたい。恥をかくのはわかっていましたけどね。

 

でも私の中で通訳は本業とは思っていません。成り行きでしてしまったことで、趣味や副業に近いです。

 

でも映画会社から仕事が来て、何回も仕事をご一緒して。おつき合いの長さもあると、相手がスターであれ何あれ、人として波長が合う人っていうのは親しくなるから続けてこられたんだと思います。

 

全ては戸田さんの映画好きから始まった

── 特にトム・クルーズさんの通訳を手がける際は、まるで戸田さんが訳す日本語を理解しているかのようにも見えました。

 

戸田さん:
トムは勘がいいからわかっているかもね。彼は本当に素晴らしい人で、とにかく映画一筋。危険なアクションも自分でして、好きな映画に命かけている。映画を作ることも、人を楽しませることも好きということに徹している彼のような人はなかなかいません。

 

── これからも翻訳の仕事を続けていきますか。

 

戸田さん:
話があれば続けていきたいです。特に長年手がけているシリーズものは愛着があるし。また一時期ほど作品に追われているわけじゃないので。字幕の仕事は机に向かっていればいいので、肉体的な負担もあまりありません。

 

昔はとてつもなく忙しかったですけど、もう80歳も半ばで今さら野望はないですよ。ゆっくりと好きな仕事をしていきたいと思います。

 

PROFILE 戸田奈津子さん

1936年生まれ。東京都出身。映画字幕翻訳者・通訳。『地獄の黙示録』で本格的に字幕翻訳者としてデビュー。数多くの映画作品を担当し、ハリウッドスターとの親交も厚い。

取材・文/内橋明日香 撮影/北原千恵美 写真提供/戸田奈津子