「プロのカメラマンになろうと奮起したのは、ある遺影の悲しい思い出がきっかけです」と話すのは、うえはたみきさん(40歳)です。ライフワークとして、20代の頃から撮影を続けてきました。遺影を通してその人の生きた軌跡や内面を写真で表現したい、とうえはたさんは言います。
ムリに引き延ばした遺影写真がぼやけていた
もともとはカメラにも写真撮影にも、それほど関心がなかったうえはたさん。2005年、たまたま写真館に就職することになり、受付やフィルムカメラの現像作業を行っていました。
「業務のなかには遺影を作る作業もありました。あるとき、急逝されたお父様の遺影を作ってほしいと、写真を持ってこられたお客様がいらっしゃいました。
突然のことだったため、いい写真がなかったようです。持参されたのは、L版サイズの集合写真。インスタントカメラで撮影されたもので、画質もよくありませんでした。
小さく写ったお父様の姿をむりやり引き延ばすしかなく、仕上がった遺影はモザイク状で、顔の輪郭などもガタガタになっていました。どんな表情なのかさえわかりにくいものに。
生前のご本人は素敵な笑顔をされていたはずなのに、面影がうかがえない写真を見て、悲しくなってしまいました。
“私に撮影する技術があれば、ちゃんとした写真を残せるのに…”と思ったんです」
それがきっかけで、「プロカメラマンになって、ふさわしい遺影を撮れるようになりたい」と考えるように。独学でカメラを猛勉強し、知人や友人にも頼み込んで、遺影用の写真撮影を依頼しますが…。
「遺影は亡くなったときに使用するため、縁起の悪いイメージがあるようです。だから、断られることも少なくありませんでした。
でも、人はいつどうなるかわかりません。いざというとき、間に合わせの写真や、本人の面影がないほど修正したものを遺影にしていいのか、疑問でした。
いつなにがあってもいいように、誰もが自分らしい写真を持っていたらいいなと思ったんです。だから遺影撮影に承諾してくれた方には真剣に向き合ってきました」