「産後うつになって」育児の孤独を実感

「転職先の病院は、お産の介助が中心でした。でも妊婦さんのなかには、つらい状況に置かれている人もたくさんいました。

 

たとえば、産むつもりはなかったのに堕胎できない周期になり、仕方なく出産する、愛情はあるのに経済的に苦しくて育てられない…。

 

地域に関係なく、困っている人はどこにでもいたんです。こうした人は産後、養子に出すことも少なくありません。

 

でも、育てられないから赤ちゃんを手放すのではなく、どんな状況でも子育てできる環境づくりが大事では?と考えるようになりました」

 

さらに、結婚し出産した高木さん自身にも、思いがけない出来事が降りかかってきました。産後3か月で職場復帰したものの、産後うつになってしまったのです。

 

「妊娠や出産の専門知識もあって、たくさんのお産に立ち会ってきたはずの私が産後うつ!? と衝撃でしたね。仕事と育児を両立する大変さを痛感しました。

 

助産院「こもれび家」は、もともとは二世帯住宅だった広い家。子どもたちものびのびと遊べる

そのとき、気軽に育児相談できる場所がないと気づいたんです。もちろん、児童相談所や保健センターなど、さまざまな施設はあります。

 

こうした施設では、経済面や家庭的に問題があるなど、明らかにハイリスクな人は手厚く守られます。ところがそれ以外は、本人が声を上げない限り、基本的にノーマーク。

 

産院も人手が足りないので、お産の対応だけで手いっぱい。母親は、産後の1か月検診が終わったら、誰にもケアしてもらえず、ひとりで育児するしかありません。

 

近くに親やきょうだいがいて、サポートを受けられる人もいますが、母親の多くは、不安を抱えながら、孤独のなかにいるんです。

 

里帰り出産したことで、いま暮らしている地域での産婦人科を知らない人は、乳腺炎になってもどこで治療してもらえるかわからない。

 

悩みがあって育児相談センターに行っても、初対面の相談員にはこみ入った話はしづらいなど、すべてが手さぐりです。

 

孤独な子育ては、産後うつの発症、さらには虐待につながりかねません。私自身の経験からも、本当に子育てしにくい世の中だなあと痛感しました。

 

もっと皆と一緒に、楽しく育児できる場所やまちづくりが必要だと感じました」