生後3か月で仕事復帰 子育てと仕事の両立は
──無事に出産を終えて、その後の生活はいかがですか。
奈津子さん:
聞いてはいたのですが、「マミーブレイン」という、一時的に記憶力と処理能力が低下する現象が起きました。ありがたいことに仕事が入って、生後3か月には仕事復帰できたものの、スタッフさんの名前や台本の構成などが覚えられなくて。
自分の脳が自分じゃなくなったような感じで意志とは裏腹に頭に入ってこないんです。これにはつい最近まで悩まされていました。
でも5感はどんどん繊細になった感覚があって、別室で子どもがうんちをしたのを、においで気がつけるとかはあるのですが、仕事的な脳が縮小してしまったように感じていました。
SNSで調べると同じような方がたくさんいて。顔を見たことない方でもみんな頑張っているとか、出産経験のあるタレントさんや女優さんを見ても、きっと大変だったんだなとか、自分だけじゃないと思うと心は軽くなりました。
──仕事と子育ての両立で、どなたか頼りになる方はいらっしゃいますか。
奈津子さん:
実家の母とは仲もいいのですが、家族だからこそ甘えてしまう部分もあるし、私は第3者が間に入る方がよかったです。母にも孫をお楽しみ的に感じて欲しくて、あれもこれもと頼むと大変なので、他人の手を借りるとうまくいくなと思っていました。
「産後ケアセンター」も数日間入ったし、助成金を最大限に使って「産後ドゥーラ」(産後ケアをしながら家事や子育てをサポートする訪問型の支援員を利用する制度)も利用しました。家に来てもらって作り置きをお願いしたり、子どもをみてもらっている間に仮眠や記事の執筆をしたり。
家の中に他人が入るのが嫌な方もいらっしゃるかもしれませんし、ご家庭の経済状況にもよると思いますが、自治体の支援をどんどん活用するのがいいと思います。
あとは、保育園になかなか入れなかったので「居宅訪問型保育」を利用し、家に保育士さんが来てくださって助かりました。赤ちゃんは日に日に可愛さも増えていきますが、会話はできないですし、お仕事を通した承認欲求は満たされません。
今は保育園に無事入れたのですが、いろいろな力を借りて、自己実現もしっかりキープするのが私の場合は必要でした。それに「表情が増えた」とか、一緒に我が子の成長をみてくれる方がいると育児の満足度も高いんです。産後どういう気持ちで過ごせたかがその後の子育てに影響すると思ったので、思い切って貯金を使って頼んでよかったと思っています。
──仕事をする上で何か変わったことはありますか。
奈津子さん:
調整できる時は、なるべく早くお迎えに行ってあげたいという気持ちがあって、そのためにも限られた時間の中で集中して仕事をこなすということをより心がけるようになりました。仕事中は大切な子どもと離れているからこそ、ポテンシャルを最大限に活かしたいと思っています。
夫は私が働くことにも協力的で、仕事のことも生活のこともたくさん話し合うのでチームとして動けているなと感じています。
──ご自身の経験を子育てで活かしたいことはありますか。
奈津子さん:
父が中学3年生のときに亡くなってから母子家庭で育ちましたが、私は母から「あなたは何をしても生きていける」と言われて育ちました。この自己肯定感は子育ての中ですごく大切だと思っていて、“自分は愛される価値がある”ということを、子どもにはわかってもらいたいです。
それに、15歳から芸能界に入ったことで、悔しい思いも沢山してきたし、恥もかきまくって生きてきました。自分自身が商品だからこそ、己をさらけ出して表に立って、捨て身になれることは大きかったなと。
人間関係のなかで「相手にこう思われたら嫌だ」という方もいらっしゃるかもしれないですが、私は早い段階から「これで嫌われても後悔はない」という風にぶつかってきました。
それは恋愛でも結婚生活でも活かされているので、建前だけでなく本音で自分らしく生きるという姿勢は仕事を通して得られた財産です。
──今後の展望を教えてください。
奈津子さん:
今している活動の延長で、家電の魅力や開発者の思いを発信し続けていきたいのと、女優としての活動の幅も広げていきたいと思っています。
先日参加した映画の撮影現場で、私が家電のプロでもあるのだということが話題になりました。おすすめの家電を聞かれて話をすることで、雑談がより一層楽しくなりましたし、現場の雰囲気は芝居にも現れるので、深く話せるジャンルがあるっていいなって。
私の場合は家電でしたけど、自信を持って話せることがあるというのはすごく大切なことなんだと思いました。
「家電女優ってなんなの、ネタなの?」ってネガティブに思う方もいるかもしれませんが、私としては真摯に家電と向き合っているしブランディングのためだけにはこんなに頑張れない。一芸を極めるという生き方もありなんだな、という人生のサンプルのひとつとして誰かの参考になれたらいいですね。
PROFILE 奈津子さん
ドラマ「野ブタをプロデュース」で女優デビュー以降、数々の作品に出演し20代でSDN48に加入。その際、劇場近くの電気街で家電の魅力に目覚める。アイドル卒業後に「家電製品アドバイザー」を取得し、現在は家電女優として多くのメディアへ出演し、私生活では1歳息子を育児中。東京FM「スカイロケットカンパニー」レギュラー。
取材・文/内橋明日香 写真提供/奈津子