“不惑”の40代、「迷っていいんだ」と思えた父の言葉

── そういうことに気がつくきっかけがあったんですか?

 

鳥居さん:私、なめこがめっちゃ嫌いだったんですよ。

 

でも「これ本当に美味しいから」と言われて食べてみたら、むしろヌルヌルが心地良い。「嫌い」が「平気」になったんじゃなく、プラスアルファで好きなところを見いだせたんです。「これはいいことだな」と思ったのがきっかけです。

 

40代は不惑の歳ですけど。この前、実家に帰って「もう不惑だから、迷っちゃダメなんだ。迷わないでどうやって生きればいいんだろう」って父に言ったら、父が「『惑っていい』と自分を肯定したら、もう惑わない」って言ってたんですよ。

 

── お父さん、良いこと言いますね。

 

鳥居さん:昔、ダンディ坂野さんも言ってたんですけど。ダンディさんって、いじられキャラだった時期があったんですよ。そのとき、私は「笑われるの、嫌じゃないですか?笑いを取るんじゃなくて、笑われてるのをなんで受け入れられるんですか」って聞いたんです。

 

そしたら、ダンディさんは「笑われているのを自分で理解して納得したら、それはもう“笑わせてる”なんだよ」って言ったんです。

 

── …かっこいいですね。

 

鳥居さん:超かっこいいなと思って。そういう大人のダンディさんの精神に近づきたいなっていうのはあります。

 

ダンディさん、その日の事務所ライブでエラいスベって、すっごい落ち込んでましたけど。

鳥居みゆき
生きづらさについて話す鳥居みゆきさん

生きづらさを感じなくなった方がヤバい

── 私、鳥居さんのYouTubeの「闇共感室」(視聴者からの悩みを鳥居さんが聞く企画)が大好きで。鳥居さんの寄り添う言葉が優しいんですよね。

 

鳥居さん:ありがとうございます。あれ、“相談”って言うと、上下が生まれるから嫌いなんです。

 

だから“共感”なんです。立場が作られる言葉が嫌いなんですよ。「悩みを聞きますよ」って、「上に立ちますよ」じゃないですか。そういうの、嫌だ。

 

── 言葉の響きに敏感なんですね。

 

鳥居さん:そうなのかもしれないです。私、言葉がすごい好きなんです。

 

「でこぼこポン!」で、でこりんが文字を読もうとすると、文字がバラバラになって逃げていく(読字障がいがテーマの回)ってお話があったんですよ。

 

私と逆だなって。私は耳で聞いたことがダメで、文字で見ないと覚えられないんですよ。なので、文字を見るのがすごい好きで、「この言葉は、なんでこういう漢字でできてるんだろう」とか考えるのが、今に繋がっているかもしれないです。

 

昔よくあったじゃないですか。「“納豆”と“豆腐”って、逆なんじゃないか」説。みんな思ってたと思うんですけど。

 

他にも、日常生活で色々なことが気になります。「ゴミを捨てるな」って看板がバキバキに折られてゴミになってたり。「どっち?」って思っちゃう。

 

── そういう気づきが、ネタに繋がっているんですね。

 

鳥居さん:そう思います。社会的に許せないというか、「何これ」ってことが気になっちゃう。

 

昔ファミレスでよく「盲導犬OK」のマークがあったじゃないですか。でもこのマークは誰が見られるの?とか。そういうちょっとしたことが気になって、頭がぐちゃぐちゃしちゃうんですけどね。

 

── 今、さまざまな生きづらさを抱える人が多いと感じています。そんな読者にメッセージをいただけますか?

 

鳥居さん:えええ!?でも、いいんじゃない?生きづらさを感じなくなった方がやばいじゃん。生きづらさを感じなくなったらさ、生きていることをやめてしまいそうじゃない?悩めるってことはいいことだと思う。「どうでもいいや」になんないってことですもんね。

 

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PROFILE 鳥居みゆきさん

2001年に芸人デビュー。「ヒットエンドラーン」などのネタでブレイクし、2008年、2009年の「R-1ぐらんぷり」決勝進出。生と死、時事ネタなどを盛り込んだ単独ライブ「狂宴封鎖的世界」も精力的に行う。また、数々の映画やドラマ、舞台などで主演を務めるなど女優としても活躍。このほか、ミュージックビデオの監督や、小説「余った傘はありません」刊行など、マルチに活躍。2022年4月から発達障害をテーマにした番組「でこぼこポン!」(Eテレ)にレギュラー出演する。

取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美