変化期を迎えた保険業界の課題
「狙いは社会課題を解決するイノベーション企業を目指すこと」と語るのは人事部の甘田裕之課長です。
中期経営計画の中でもあげていますが、「これから重要なことは多様な経験を持った社員が、社内でより前向きに働くこと」だそう。
その方法として編み出したのが副業の推進。社外のカルチャーと接することでイノベーションが生まれるのではないかと期待しています。
「従来は副業は少しネガティブな印象があったかもしれません。しかし、決してそんなことはなく、さまざまな経験を積むことは社員にとっても会社にとっても魅力的なんです。それを打ち出しました」。
では具体的なイノベーションとは何でしょう。
保険業界は今、変化期に差し掛かっています。従来は自動車事故があった場合に適切に保険を支払うことが主な業務でした。しかし、それだけでは激しいグローバルな競争社会で生き残れないとみて、保険本来の機能に加えて、「補償前後の価値」を創造し、提供していきたいと考えています。
そこで必要なのがアイデア。「それは各自の体験、体感、または困っている方との接点から生まれます」と甘田さんは分析します。
「そんな変革期、保険以外の収益ビジネスモデルを構築する時期に、社員がまったく違った体験を社外でしてくることで、従来は生み出されなかったアイデアを出せるようになるのではないかと考えています」
イノベーションのほか、期待されるのは離職者の減少です。
「もしかしたら、他社で自分の力を試したいと思って転職していった人もいるかもしれないと思うので、そういった方にとっても、今の仕事をしながら、別の仕事もできる環境を得られるのは魅力的な会社になっていくのでは」と甘田課長はみています。
すでに中小企業診断士、社会保険労務士などとして活動している社員や、休職してMBAを取得する社員も出ています。
人生100年時代のキャリア形成にも役立つ
もうひとつの狙いは退職後のキャリア形成です。
人生100年時代に備えて、社員のうちから個の力を強めることで、退職後もスムーズにキャリアを形成していくことが可能になります。
その結果、会社に対するエンゲージメントが上がり「この会社で働いてよかった」と思ってもらえるようになると甘田課長は考えているそうです。
新卒採用も始まりましたが、入社希望者からも「副業は認めているんですよね」などの質問が出ており、注目を集めているそう。
ただ、副業はあくまで社員の自主性に任されています。会社が副業先を斡旋すると副業も強制になり、楽しさも感じられなくなってしまうと懸念するからです。
あくまで副業、出向などの社外経験を持つことは「推奨」で、2030年度の本格導入時も社外経験がない人は昇進できないわけではありません。「社員の一人ひとりが自律的なキャリア形成を実現できる環境整備や、社外カルチャーにチャレンジする機会を拡大していきたい、そうすることで、外部との連携による『オープンイノベーション』を活性化できるのではないか」(甘田課長)とみています。
取材・文/天野佳代子 写真提供/三井住友海上火災保険