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「ピンク・レディーに憧れて」専業主婦から40歳で女優デビューした女性の一度は諦めた夢の形

仕事

2022.02.12

子どもの頃に描いていた夢を実現できた方は、どのくらいいるのでしょうか。結婚、出産を経て専業主婦から一度は諦めた夢を叶えるべく再び動き出し、現在は役者として活躍する堀田ヤスヨさん。ドラマ「半沢直樹」や「奇跡体験!アンビリーバボー」の再現VTRなどにも登場する堀田さんは「主婦の私にはちょい役がピッタリ」と話します。ご自身のことを遅咲きだという堀田さんに、これまで歩んできた人生を伺います。

きっかけは地元・茨城で開催されたオーディション

「長男が幼稚園のときでした。地元の公民館で、映画『桜田門外ノ変』の出演者募集のチラシを見たんです。水戸で撮影するんですけど、プロアマ問わずでした。他のお母さんは、主演の大沢たかおさんを見に行きたいと言って、エキストラに応募していました。

 

でも私は、そこに役者募集と書いてあったのを見て、役者に応募したんです。でもみんなには内緒でした」

2人の息子さんを育てながら専業主婦だった

 

「オーディションでは、愛人さんが牢屋で体罰を受けているワンシーンを与えられて演じました。鞭で叩かれて、『私じゃない、私はやってない』というセリフでした。

 

鞭で打たれたときに出す声を、他の方は『きゃぁ』と言っていたんですが、私は可愛らしさとかをいっさい出さずに、死ぬような声ってこうかなと思って低い声で叫んで表現しました」

 

堀田さんは見事このオーディションに合格。お茶屋の女将役で映画への出演を果たします。

 

キャスティングの方になんで受かったのかを聞いたら『苦しみ方がプロだった、元気のいいおばさんだったから』と言われました。思いっきり噂話をする役なのですが、いかにも私そのまんまなんです。容姿に自信がなくて、若くもない私が役を貰えたことでひとつの自信になりました。

 

役者だけに限らないと思いますが、誰もが自分にしかできないポジションってあると思うんです。今の自分にしかできない役をしたら役者ができるんだと思いました」

ドキドキの映画デビューと撮影現場で訪れたハプニング

「渡辺裕之さんと西村雅彦さんと、大沢たかおさんのシーンにいきなり出ました。

 

監督は大御所の佐藤純彌監督でした。現場には100人くらいの人がいるんです。今までいろんな現場に行ってきたけれど、映画はスタッフさんもたくさんいて、心臓が飛び出るかと思うほど人生で一番緊張したと思います。

 

一般人から受かっているんですけど、役者さんたちはそれを誰も知らないんです。控室にもちゃんと堀田ヤスヨ様と書いてありました」

 

1か月前にもらったという台本で練習を重ね、セリフは完璧な状態で撮影に挑んだ堀田さんに思わぬハプニングが起こります。撮影直前にセリフの順番を変えるよう監督から指示があったといいます。

 

「内心焦りながらも『はい、わかりました!』と勢いよく返事をしたんですが、慌てているのを察していただいて、5分休憩が入りました。

 

役者さんを待たせているなかで必死に練習したんですが、その様子を見てくださっていた渡辺裕之さんが、ものすごく紳士に『練習付き合いましょうか?』と言ってくださって。

 

『すみません、ありがとうございます。でもがんばりますから、大丈夫です』と答えたんですけど、ずっと聞いてくださっていて。私がセリフを言うと『違うよ(笑)』と。結局、練習に付き合ってくれました。

 

なんとか無事に自分の出演シーンを終えるんですが、楽しかったとかいう気持ちはなくて。『おさまった…』と。ふらふらでした」

映画「桜田門外ノ変」に出演した堀田さん

夢を追いかけるきっかけを作ってくれた渡辺裕之さん

堀田さんは撮影後、渡辺裕之さんにお礼を言いに行ったそうですが、そこから思いがけず話が広がったと言います。

 

「渡辺さんとは、セリフの順番が変わるハプニングがなければ会話をすることはなかったと思うんです。

 

『私、一般オーディションで受けたので、今回で終わりだと思います』と言ったら、『まだまだこれからだから、役者すればいいじゃん!』と。そこで改めて私今日、役者だったんだ!という実感が沸いたとともに、もう一度夢を追いかけてみようかなと思いました」

 

このご縁がきっかけで、渡辺さんが主演、初の監督をつとめる「桜田門外ノ変」のスピンオフ映画「桜田門内の変!?」にも、地元の撮影にボランティアで参加し、出演したといいます。

 

「脚本家で茨城弁を話す役なんですが、渡辺さんと同じシーンもありました。専業主婦で10年くらいブランクがあったんですが、渡辺さんは私をもう一度この世界に引き戻してくれた恩人です」

渡辺裕之さん(写真右)と映画『桜田門外の変?!』の撮影で

夢を叶えるためがむしゃらに働いた40代

堀田さんは、映画への出演をきっかけに、子育てと両立しながら役者の仕事をスタートしようと決意しました。ところが、ほどなくして東日本大震災が起こります。

 

事務所も決まっていよいよというところで震災が起きました。また夢を諦めるのかと思いかけたときに、復興支援の舞台や映画をきっかけにボランティアから役者を始めました。

 

地震の被害を受けた自社施設が半年ほど稼働できなかった影響で、震災後しばらくしてから夫が減給になってしまい、家のローンもあるのでパートに出たのもこの時期でした。絶望感がありましたね

 

設計事務所と飲食店のパートを掛け持ちして働いて、そこからボランティアの役者の仕事は全部辞めました。仕事としていただけるものはどんなに小さな役でも続けて、とにかくプロにこだわりました。

美空ひばり役としてテレビ番組内のドラマに出演

 

チャンスがあれば本当になんでも、再現VTRに、映画に、CMにも出ました。ポカリスエットのCMで結果1秒くらいしか使われていないこともありましたよ。現実の厳しさを目の当たりにしながらも粛々と仕事に取り組みました。

 

自分の好きな役者で、お金を頂ける存在になりたかった。子ども2人の塾代などにお金がかかり始めたのもあって、時間があればパートに出ていました。疲れて目がくらくらすることもありましたけど、がむしゃらに働きましたね」

 

当時、小学生だった息子2人の世話を夫にお願いして、都内の仕事に行くこともあったといいます。

 

「都内の仕事の時は、朝4時の始発で茨城から東京に行っていました。子どもには『お母さん、明日いないけどちゃんと8時に学校に行くんだよ!』と言い残して。夫の協力があって仕事をすることができました。

 

朝昼晩の食事を全部作って、冷蔵庫に入れていくんです。出来合いのものに頼りたくなかったんですよね。普段は食べさせているんですよ(笑)。でも仕事のときは意地があって、自分が家にいないときに手抜き母さんになりたくなかったんです」

求められたものの先に個性がある

「ピンク・レディーに憧れていた私ですが、同じ業界でスターではないけれども、できる役がある。夢を諦めたという意味ではなくて、己を知らなかったんですよね。売れたいとか、こうなりたいだけでは叶わなかったことも、自分を受け入れることで輝ける。

 

自分の持つ武器は何かを知って、ニーズとぴったり一致したときに仕事がやって来るということがわかりました。

 

ずっと模索をしていて、うまくハマったのが中年女性とかお母さんとか、等身大の自分に合う役でした。自分が表現できる役をやろうと思ったんです。これをし続けていると次に出てくるのが個性だと思うんですね。私が次に目指しているものは、あの役者さんをもう一度見たいというリピーターを増やすことです」

撮影後に石井麻里監督と

子どもに夢を見るのではなく、自分の人生に向き合っていきたい

「この仕事を再開したのは、子どもたちに夢を持ってほしいと思ったのもあります。このまま夢を諦めたら子どもに自分の好きなことをさせて夢を見ちゃうって思ったんですね。もっと自分に関心を向けた方が良いなと。

 

それに自分が中途半端なことをしたら子どもも中途半端なことをすると思ったんです。無理かもしれないけど、プロを目指すというその姿勢を伝えたかったんだと思います。

 

どんなに子どもを愛していても、例えば1週間ずっと看病をしたりすると気が滅入りますよね。でも自分にも楽しみややりがいがあったら、子育ても家のこともがんばれるんです。

 

人にもよると思いますが、私は家庭がすべてだと気持ち的に逃げ場がなくて。友達との時間や自分の時間があることで、バランスが保てました」

役者の仕事を応援してくれるという2人の息子

「やりたいことがある」ほど幸せなことはない

「これしかできないという仕事で辛抱した経験もありますが、やりたいことと本当に生きがいを持つことほど幸せなことはないと思ったので、子どもたちにはいちばん好きなことを諦めちゃだめだよと言っています。ドキドキすること、心にヒットしたことはどんどんやりなって。もちろん悪いこと以外ですよ。

 

そこから自分がしたいことのヒントが見えてくるし、人間関係もできる。そこから繋がったご縁には今も感謝しているんです。でも、したいだけじゃだめだから、できることからやってみたらって。今できなくても努力していたら、いつか何らかの形でできる。挑戦し続けたらびっくりする人に出会えたりするし、どこでどう繋がるか人生わからないですからね」

 

一度は諦めた役者の夢を40歳で叶え、現在50代を迎えた堀田さん。等身大の役を演じることで輝く方法を見つけたという堀田さんの、今後のさらなる活躍に期待したいです。

 

PROFILE 堀田ヤスヨ

1970年生まれ、大分県出身。「大林宣彦監督尾道映画祭コンテスト」キャラクター賞受賞。女優を目指すも結婚出産を経て専業主婦に。40歳での映画出演を機に等身大の役を演じるニッチな女優としてドラマやCM、再現VTRに出演中。

取材・文/内橋明日香 写真提供/堀田ヤスヨ

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