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「あなたと働きたい」絶対だった挨拶を禁止にしたエビ工場の思い

仕事

2022.02.13

天然エビの加工を行う「パプアニューギニア海産」では、連絡なしに休み、好きな日に好きな時間だけ働く「フリースケジュール制」や「嫌いな作業はしてはいけない」などのルールを取り入れて従業員の働きやすい職場環境を整えてきました。

 

そんなエビ工場で働く人も多様です。障がいのある人や生きづらさを抱える人と一緒に働くためにエビ工場が新たに設けたルールとは「挨拶禁止」。


代表取締役であり工場長の武藤北斗さんお話をうかがいます。

武藤さん

武藤さん

挨拶をする自由としない自由

── 御社には挨拶禁止というルールがあるそうですが、具体的にはどういうことでしょうか?

 

武藤さん:
はい。まず、エビ工場には、毎月パート従業員にアンケートをとり自分の嫌いな作業に×をつけてもらい、×をつけた作業は「やってはいけない=禁止」というルールがあります。そのアンケート項目に昨年から「挨拶」が追加されました。

 

── 挨拶が苦手な人は「挨拶禁止」ということでしょうか。

 

武藤さん:
はい。挨拶が苦手な人もいれば、好きな人もいますから選択できるようになっています。挨拶がしたくない人は挨拶を禁止にしています。

障がいがある彼が、確実に苦しんでいることは分かるから

── このルールを導入した背景を教えていただけますでしょうか?

 

武藤さん:
はい。社交不安障がいを抱えるパート従業員と会話を重ねたことがきっかけです。彼は、人前で話すことや「こうしなければいけない」という制約が多い状況におかれると、不安感や恐怖感を抱くそうなんです。

 

工場内での不安なことについて彼に話を聞くと、「挨拶が難しい」と返ってきました。挨拶やお礼を伝えたい気持ちはあるのに、その言葉が出てこない。


それまで僕がみんなに言ってきた「大きな声で挨拶をしましょう」というルールの下ではなおさらだったのだと思います。出来るときもあるのですが、その条件は、場所や作業内容、相手との関係性など、さまざまな要素が複雑に絡み合っているようでした。

 

僕はスポーツをずっとやってきたせいか、大きな声で挨拶することは絶対に大切なことだと長年言い続けていますし、今もそう考えています。なので最初に彼の話を聞いたときは驚き、正直なところ理解が追いつきませんでした。

 

それでも、目の前の彼が確実に苦しんでいることは確かに分かった。なので、彼に関しては「挨拶禁止」というルールにしようとなったんです。

工場の様子

ひとりが苦しいと声をあげることで、他にも救われる人がいた

── 彼のみが「挨拶禁止」というルールに対して、従業員の反応はどうだったのでしょうか?

 

武藤さん:
それが、彼のことを説明したら「実は私もしたくない」という人が何人か出てきたんです。そのときは「え!そうだったの!?」となりましたね(笑)。

 

それで、先ほどお伝えしたアンケート項目に「挨拶」という項目が加わりました。彼と同じ意見を持っていた従業員からは「よく声をあげてくれた!」という声もありました。

 

こういうことが起こるので、僕だけの感覚で進んではダメなんですよね。みんなの意見を聞かないといけない、とあらためて思いました。

子育てをしている人の働きやすさは最低ライン

── 働いている従業員は、やはり働きやすさを求める子育て中の方が多いのでしょうか?

 

武藤さん:
いえ、今は特に偏りはないですね。現在パート従業員が22名いるのですが、独身の方やもうお子さんに手がかからない人もいますし、もちろん子育て中のお母さんもいます。また、障がいのある人や、働きづらさを抱えている人たちも一緒に働いています。

 

好きなときに働けるフリースケジュール制を取り入れた最初の頃は子育て中の方が多かったんです。でも、8年も一緒に働いていると従業員のお子さんも大きくなって「もうそんなに大きくなったの!?」なんてことも起きていて(笑)。

 

僕は、そもそも子育てをしている人が働きづらい社会であってはいけないと思っていて、そこは最低ラインだと考えています。


そこからもう一歩、もう二歩進むにはどうしたらいいかを考え続けてきた結果、障がいのある人も生きづらさを抱える人も含めて、色んな人が働きやすい会社になっているんじゃないかと思っています。

エビ工場が目指す社会とは

── パプアニューギニア海産が目指す会社とは、どのような会社、社会なのでしょうか

 

武藤さん:
ちょっと前までは、このまま続いていけばいいなと思っていたんです。でも、2年ほど前から障がいがある方や生きづらさを抱える方と一緒に働くようになり、考えに変化がありました。

 

今後は、誰も排除しない、誰もが居場所のある会社に、そして社会にしていきたい。誰にでも必ず寄り添える場所があるような社会に。そんなことが実現できれば、きっと誰もが生きやすい社会への一歩になるのではないかと思っています。

 

── 障がいのある方や生きづらさを抱える方と一緒に働くようになって、2年前と比べてどのような心境の変化があったのでしょうか

 

武藤さん:
この2年でさまざまな人を認め合って確実にチームワークが高まっています。いろんな人が一緒に働くことによって、組織が強くなることを実感しました。会社や社会にとって大きなプラスになると確信したんです。

 

けれども同時に、今の社会がいかに特定の人を排除しているかということも実感しました。障がいがある人と一緒に働くことによって「何か問題が起こるのでは?」「効率が悪くなるのでは?」などと言う方もいますが、そのような恐れや憶測から排除は起こってしまうのではないかと思うのです。

 

── 武藤さんが発信を続ける理由はここにあるんですね。

 

武藤さん:

僕は、障がいのあるなしにかかわらず、働いているすべての従業員と対話を重ねながら働きやすい職場を考えつくっていきたい。

 

どの従業員に対しても「良いところを伸ばしていこう」とは考えていません。それよりも、従業員が働く上で「苦しい」と感じることをなくすことに集中したい。それさえできればみんなが心地いいと思うんです。だから、僕たちはこのように働き、発信します。同じ意識を持っている人たちと繋がっていくためにも。

 


「僕がいい人で優しいからこういう働き方をしているわけではなく、会社として理にかなっていて、この方が従業員と会社にとってプラスになるから続けている」と力強く言う武藤さん。「恐れや憶測から排除は起こってしまうのではないか」という言葉が胸に残りました。

取材・文/渡部直子 写真提供/武藤さん

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